3月9日の夕刊の版違い比較

2018年3月11日

 3月9日はニュースの特異日だった。午前中にトランプ米大統領が米朝首脳会談に応じる意向とのニュースが入り、熊谷6人殺害事件の被告に死刑判決が出た。お昼になると共同通信が、「森友問題対応の近畿財務局職員が自殺か」との速報を配信。午後には佐川国税庁長官が辞意を固め、夜に麻生財務相が佐川氏への懲戒処分を発表。さらに佐川氏は辞職し記者団のぶら下がり取材に応じた。

 さて新聞社は朝刊、夕刊それぞれ1日に複数の版を製作する。印刷拠点から配達までにかかる時間が地域によって異なるため、いくつかの締め切り時刻を設定して、印刷拠点に近い地域で配られる紙面ほど最新の情報が反映されるようになっている。

 特異日だった9日、各紙夕刊は早版でどこまで情報を入れ込み遅版でどれくらい紙面を編み直したかを探ろうと思い、アルバイト勤務を終えた夕方から電車に乗り込み各地の新聞売店を訪ねた。今回はそのリポートをお届けする。

入手した新聞

 入手したのは朝日・毎日・読売が3版と4版(第1、第3社会面は「4版○」)。日経が1版、3版、4版。産経が4版と5版。神戸が4版と、社会面のみ5版に差し替わった4版(以下「追っ掛け4版」と呼ぶ)ものだ。全国紙はいずれも大阪本社発行版。

 入手場所は大阪駅周辺で朝日の3版と4版、毎日の4版、読売の3版と4版、日経の4版、産経が5版、神戸が追っ掛け4版。加古川駅で毎日3版、日経1版、産経4版。日経の3版は堺の自宅に配達されたもの。一応姫路駅にも行ったが加古川駅よりも早い版は見つからなかった。

 各版の締め切り時刻は明らかにされていないが、目安として外国為替の欄で何時時点のドル円の値が書かれているのかを示す。
  ▽朝日=3版正午、4版正午
  ▽毎日=3版正午、4版正午
  ▽読売=両版とも時刻不掲載
  ▽産経=4版午前11時半、5版正午
  ▽日経=1版10時、3版11時、4版正午(日経平均はそれぞれ11時、午前終値、午後1時)
  ▽神戸=4版10時、追っ掛け4版10時

森友が総合面から1面に昇格──朝日

朝日新聞3月9日付の夕刊(大阪本社発行)の1面。3版(左)と4版。

 1面の変化が最も分かりやすいのが朝日新聞だった(写真1)。トップ記事では横書きの黒ベタ白抜きで「米朝首脳会談へ」と見出しがついたが、3版が横幅いっぱいに広がっているのに対して、4版は紙面のカタ位置に準トップの森友問題関連の記事を置き、トップの横見出しを右に縮めている。

 森友関連の記事は3版では1面にはなく、総合面の3番手として「野党、審議応じぬ方針」の記事があった。野党6党が9日中の国会審議に応じない方針を固めたという内容。この内容に、与党が財務省から文書調査の状況説明を受けたという内容を主たる内容に差し替えたものが4版で1面に昇格したという次第だ。3版で森友記事が載っていた場所に4版では、3版1面末位の「TPP11、各国署名」が移った。

 社会面を見ると、3版にはなかった近財局職員自殺のニュースが4版では第1社会面に入っている。森友問題記事の1面昇格はこのニュースを念頭に置いたものと思われる。

朝日新聞3月9日付夕刊(大阪本社発行)の第1社会面。3版(上)にはなかった「森友担当部署職員自殺か」の記事が4版で加わっている。

職員自殺のニュース掲載タイミングと扱い

 以前、評論家の西部邁氏が自殺した時にもこのブログで取り上げたが、自殺報道には後追い自殺を誘引しないための慎重さが求められる。世界保健機関(WHO)のガイドラインから言えば、自殺のニュースを紙面の最上部に掲載するのはあまり望ましいことではない。しかし報じることによる公益性がある場合もあり、どのように自殺を報じるかは各報道機関の良心に基づいて判断されるべきだろう。

 先ほども紹介したとおり朝日は4版で第1社会面準トップに据え、見出しを黒ベタ白抜きとした。重要ニュースとしての扱いと言っていい。では他社はどうしたのだろうか。

 毎日は4版で掲載。位置は第1社会面7段目(15段組)で見出しは縦3段、2本。日経は4版で第1社会面10段目(15段組、広告除き最下段)でベタ見出し。産経は4版、5版ともに第1社会面の3番手で、12段組の2段目に見出し縦3段、2本。神戸は4版、追っ掛け4版とも第1社会面の3番手で、12段組4段目に見出し縦3段、2本。読売は3版、4版とも掲載がなかった。

 まとめると産経と神戸が比較的大きめの扱い、毎日と日経は抑制的な報じ方だった。12段組と15段組で対応が分かれたのは偶然かも知れないが、15段組の方がレイアウト製作の自由度が高く、影響がある可能性もある。

 なお夕刊で掲載できなかった社は翌日朝刊で掲載している。基本的に朝刊の版は夕刊の版数に10を足したものになっており、夕刊と対応させている。

 朝日は13版で第1社会面準トップ1段目(15段組)、見出しは3段(12段組)、2本。14版で詳報や麻生財務相の反応などをまとめた記事を第1社会面3番手5段目、見出しは3段(12段組)、2本。毎日は13版で第1社会面10段目(15段組)に見出し3段、2本。14版では遺書とみられる置き書きが見つかったという続報を、同9段目に見出し2段、2本で掲載した。

 読売は13S、14版とも第1社会面6段目(12段組)に見出し2段、2本。日経は★13版で1面の佐川長官辞任の記事の末尾で触れた。「★11版」は入手できていないし存否も私は知らない。産経は14版、15版とも続報を第1社会面7段目(15段組)に見出し2段、2本。神戸は14版が最終版で、第1社会面8段目(12段組、広告除き最下段)にベタ見出しで続報を載せた。

厄介な「米」

読売新聞3月9日付の夕刊(大阪本社発行)。3版(右)と4版

 この日の夕刊編集の時間にはアメリカ関連でもう一つニュースが入っている。トランプ大統領が鉄鋼とアルミの輸入品に対して新たな関税をかけることを正式に決めたというニュースだ。神戸以外の5紙が1面で取り上げた。

 このニュースは読売と日経が、見出しを早版と遅版とで文言を変更したケースが多い。

 ▽読売
 【3版】米輸入制限に署名 トランプ氏 日本は適用対象 鉄鋼・アルミ
 【4版】米鉄鋼輸入制限に署名 トランプ氏 カナダ・メキシコ除外
 ▽日経
 【1版】米、輸入制限に署名 カナダ・メキシコ猶予 日本は交渉余地
 【3版】米輸入制限、23日発動 カナダ・メキシコ猶予 日本は交渉余地
 【4版】米輸入制限、23日発動 カナダ・メキシコ猶予 日本は交渉余地

 「米」は厄介である。ここではアメリカの意味で、農産物の意味で使う場合は新聞では「コメ」とカタカナ表記することが多い。だけどそんな使い分けは読者の知ったことではないので「輸入制限」の前に「米」がつくと、コメの輸入が制限されるようにも見える。

 読売は3版では「鉄鋼・アルミ」と付け加えて、見出しだけでもコメの輸入制限ではないことが分かるようになっている。4版では主見出しに「鉄鋼」を付け加えている。日経は3版で見出しに「23日発動」という情報を足したので読点を移したのだろう。日経新聞の読者層ならまさかコメ輸入制限だとは思わないだろうという判断かも。

 なお参考として見出しの変更がなかった社の見出しは以下の通り。
 ▽朝日 米、鉄鋼関税を正式決定 日本の扱い 今後協議
 ▽毎日 米輸入制限23日発動 大統領署名 「貢献」次第で対象外
 ▽産経 米、輸入制限23日発動 鉄鋼・アルミ 日本など除外協議へ
 ▽神戸 米、輸入制限23日に発動 大統領署名 同盟国適用外に余地