2019 読書この一年

2019年12月31日
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 2019年の年間読了冊数は139冊でした。半年の休学期間があったこともあり、当初目標だった月10冊ペースを特に年後半は超えました。大学図書館を活用して新刊書を多く読めたことも特徴の、今年の読書活動を総括します。


目次

  1. 『維新支持の分析』『女性のいない民主主義』─政治
  2. 『景気の回復が感じられないのはなぜか』─経済
  3. 『「声」とメディアの社会学』─マスコミ関連書
  4. 『居るのはつらいよ』─その他

『維新支持の分析』『女性のいない民主主義』─政治

 手に取る機会の多かったのは政治分野の学術書でした。4月に統一地方選、7月に参院選があり、選挙制度で論文を書いている友人と話す機会も多かったことが影響しています。

 実証分野の出色は善教将大『維新支持の分析(有斐閣、2018年刊、6月16日読了)です。著者は大阪維新の会が大阪の選挙で勝ち続ける理屈を、ポピュリズム政治家による大衆扇動に求める既存のイメージではなく、有権者が可処分時間の中で情報を得て吟味した「合理」の結果だとする仮説を立てます。住民投票公報などの文献や有権者への意識調査などから維新支持の実態を検証しました。維新支持層を政治家にあおられた無知な人と捉える向きを牽制し、彼らの投票行動は何を反映したものであるかを見つめ直しています。

  全国的には「安倍一強」、大阪では「維新一強」が定着する中にあって政権批判(あるいは弱い野党への批判)の議論は依然噴出し続けています。これはこれで大事なことですが、一方でその要因を、政党や政治家の特徴ばかりに求めるのではなく、有権者の意識や行動をしっかりと認識することから打開策を探っていくべきだという議論も一般の注目を浴びるようになってきたのではないでしょうか。同書はこの筆頭であり、他に田辺俊介編著『日本人は右傾化したのか─データ分析で実像を読み解く(勁草書房、9月刊、10月24日読了)や、遠藤晶久、ウィリー・ジョウ『イデオロギーと日本政治─世代で異なる「保守」と「革新」(新泉社、2月刊、8月14日読了)なども貢献しています。一般向け新書では世論調査分析をSNSで発信する三春充希武器としての世論調査(ちくま新書、6月刊、6月19日読了)も有権者意識への関心という意味で同趣旨に位置づけられるものの、社会科学系の出身ではないためか、地域の政治意識の特色に関する言及など分析には疑問点も多い内容です。

 政治思想分野では原武史の著書を複数手に取りました。明仁、美智子の「平成流」形成の経緯をたどりつつ、国民の共感が燃料となって天皇の権威付けが増していく状況に警鐘を鳴らした平成の終焉─退位と天皇・皇后(岩波新書、3月刊、4月18日読了)は、膨大な資料による事実に立脚しながらも批判精神に貫かれた平成論です。年末にかけて読んだのは原が提唱する空間政治学関連から、西武沿線の政治運動史に着目したレッドアローとスターハウス─もうひとつの戦後思想史【増補新版】(新潮選書、5月刊、12月19日読了)と、NHK番組「100分de名著」の内容を書籍化した「松本清張」で読む昭和史(NHK出版新書、10月刊、12月21日読了)。原の仕事の幅広さを感じます。

 佐藤信『日本婚活思想史序説─戦後日本の「幸せになりたい」(東洋経済新報社、5月刊、10月31日読了)は1980年代の雑誌「結婚潮流」に現在の婚活的なものの先駆けを見るなど、マスメディアに表れた結婚に対する意識の変遷をたどった本です。社会学っぽいのですが著者は政治学者です。

 政治学書で今年絶対に外せないのは前田健太郎『女性のいない民主主義(岩波新書、9月刊、10月1日読了)。行政学が専門で2014年の市民を雇わない国家(東京大学出版会、8月7日読了)で注目された著者による書で、標準的な政治学上の理論をおさらいしながら、その一つ一つが女性の存在を無視してきたことを指摘する一問一答的スタイルの意欲作です。政治学に疎い人でも基本概念を得ながら、それに対するジェンダーの視点からの批判をも知ることができる一粒で二度美味しい内容ですし、政治学が抱える課題の大きさと、この課題を真剣に引き受けてバージョンアップさせることの重要さが浮き彫りになっています。岩波新書らしい画期作です。

 その他、中公新書から曽我謙悟『日本の地方政府─1700自治体の実態と課題(4月刊、9月15日読了)、辻陽『日本の地方議会─都市のジレンマ、消滅危機の町村(9月刊、9月18日読了)と、地方政治をまとめて理解できる、中公新書らしい良作が2冊出ています。

(次ページへ続く)