2021 読書この一年

2021年12月31日

(前ページの続き)

政治=「一強」、その複雑性を丹念に追う

 行政学の専門書からは小林悠太『分散化時代の政策調整 内閣府構想の展開と転回』(大阪大学出版会、11月発売)を挙げたいと思います。

 省庁間の縦割り的な弊害を打破すべく、司令塔としての役割を期待された内閣府は、さまざまな諸課題を抱えて肥大化していき、結果的には2016年に「スリム化」を図るべく一部政策について調整機能を再び各省庁に戻す改革が行われました。

 内閣府の肥大化を「首相権力の増大」で説明する向きが多い中、本書ではむしろ、省庁官僚制が引き受けられなかったニーズへの対応という官僚制由来の論理で説明しています。財政制約と政策の高度化のジレンマの中で、行政の基礎単位が「課」からひとつ下の「室」へと分散化していく中、従来の省庁制の限界と、課題自体の困難さに対応する内閣府の柔軟性が見て取れます。

 つまり「ぜんぶ首相が決めていく」のような一強体制的イメージとは裏腹に、政策調整のプロセスの選択肢が増えていく過程といえます。本書ではさらに、従来の省庁制での調整でも、内閣府による調整でも対応困難な領域に対応するために官房長官─副長官─副長官補というラインの存在感が高まっていることも指摘されています。

 本書はこうあるべきだという像を提示するたぐいの本ではありませんが、単純な「一強」を超えた豊かな理解を促す労作と思います。

内閣府はどのように生まれ、何を果たしてきたのか。 内閣府は、複雑化した政策課題に対応するために省庁官僚制の「縦割り行政」を超えた総合調整を行うカギとなる行政機関…
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 新書では青木栄一『文部科学省 揺らぐ日本の教育と学術』(中公新書、3月発売)が、特に旧文部省系が政府中枢には弱く、学校・大学等には強いという「間接統治」的側面を持つがゆえに、文部科学省独自の「応援団」を形成できず政財界の横やりを防ぎきれないまま、大学の体力低下等の形でしわよせが現場へ向かっているという見立てを展開しています。「一強」体制において省庁がどのような振る舞いをするかは決して画一的ではなく、それまでの経緯や文脈の影響を受けていることに気付かされました。

青木栄一著『文部科学省』
 文部科学省のイメージは場面によって大きく変わる。私も少し前までは大学生だったが、大学から見た文科省というのは、とにかく金は出さないくせに運営方法については微に…
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文部科学省は2001年に文部省と科学技術庁が統合されて発足した。教育、学術、科学技術を中心に幅広い分野を担当する。本書は、霞ヶ関最小の人員、「三流官庁」と揶揄さ…
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 善教将大『大阪の選択 なぜ都構想は再び否決されたのか』(有斐閣、11月発売)は、大阪ではもはや「維新一強」なのになぜ都構想は2回も否決されたのかという問いに、因果推論の手法で迫っています。

 本書が明らかにした結論自体がまず説得的であることも評価すべきポイントですが、その結論を得るための実証がとても労力のかかるプロセスを経ていることに圧倒されます。なんとなくこういうことではないかという仮説をもっともらしくしていく手段は必ずしも統計的・計量的に分析することだけではないと思いますが、統計的にもやろうと思えばできるということ自体、感心させられます。

善教将大著『大阪の選択──なぜ都構想は再び否決されたのか』
 恥ずかしながら本書を読み始めて最初に思ったことは、2回目の大阪都構想住民投票からまだたった1年しかたっていなかったのかという驚きだった。かなり当時のことを忘れ…
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「大阪都構想」を問う住民投票は,なぜ再び反対多数になったのか。独自のデータを用いた分析から大阪市民の選択の理由を明らかにする。維新は今後活力を失っていくのか,あ…
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(次ページへ続く)