2021 読書この一年

2021年12月31日

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人文=人間にとって責任とはなにか

 異端のカウンセラーが自らの理論をまとめた集大成的著作、信田さよ子『家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ』(角川新書、3月発売)は、タイトルが示唆するように、人の内面に着目するという心理職のイメージを覆して、むしろ「関係」へのアプローチの重要性を説いています。

 そもそも心理的な問題は、家族などとの「関係」を原因として起きています。依存症などの問題行動を加害─被害の抑圧構造に対する「レジスタンス」と捉え、抑圧構造の解消のために限定的に「加害」「被害」の枠組みを活用する。これが著者の理論でした。

 「関係」が問題である以上心理職として、政治学や社会学、女性学と言った「関係」の力学をめぐるさまざまな見地を総動員してきた著者の実践は、この社会に幾重にも張り巡らされた責任回避の体制に対するアンチテーゼとなっています。

信田さよ子『家族と国家は共謀する:サバイバルからレジスタンスへ』
 カウンセラーは心理・精神を対象とするというイメージが当然のようにあるが、摂食障害、アルコール依存症のように心理・精神と身体性の区分けは明確でなく、DVや虐待の…
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最大の政治団体、家族と国家による暴力。 日々、私たちはそれに抵抗している。 家族は、以心伝心ではなく同床異夢。 DV、虐待、性犯罪。最も身近な「家族」ほど暴力的…
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 責任とは負わされるもの、押し付けられるもの、といったイメージを「堕落した責任」と批判し、責任とは本来どういうものなのかを問い直すのが國分功一郎、熊谷晋一郎『〈責任〉の生成 中動態と当事者研究』(新曜社、2020年11月発売)です。

 國分が「責任(responsibility)」が「応答する(response)」に由来することに着目し、本来の責任は困難を前にして自ら引き受けるものではないかという議論を展開します。すると熊谷はある精神障害者の例として、反省を求められ続けながらできなかった人が、「免責」された上で自ら「引責」に至るという事例を紹介します。

 責任を自ら引き受けることとはどういうことなのかを考えれば考えるほど、能動─受動モデルだけでは捉えきれない中動態的な責任のあり方が見えてくるという不思議さを、2人の対談を読みながら味わいました。

國分功一郎、熊谷晋一郎『〈責任〉の生成:中動態と当事者研究』
 國分功一郎は『中動態の世界』で、中動態が消え、能動態と受動態の対立が基本となる過程は、「意志」概念の誕生と関連しているのではないかという論を提示した。物事の複…
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責任(=応答すること)が消失し、「日常」が破壊された時代を生き延びようとするとき、我々は言葉によって、世界とどう向き合い得るか。『中動態の世界』以前からの約10…
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