「北海道へメール、SNSで情報を」NHKの異例呼び掛けを振り返る(放送文字起こしあり)

2018年10月9日

 北海道厚真町で震度7を観測した「北海道胆振東部地震」から6日で1か月がたちました。被災された方々にお見舞い申し上げるとともに、被災地の復旧復興が早く進むよう祈っております。

 今回の地震では直後に北海道電力の設備が被災し、全道で停電するブラックアウトの状態に陥りました。私自身は直前に台風21号の関西直撃で自宅が24時間停電する事態を経験しており、地震当時もとても心配したのを覚えています。

 この時NHKは地震報道の中で異例とも言える放送をしていました。停電でテレビやラジオから情報が得られない人が多くいることを前提に、道外の視聴者もSNSやメールなどで道内の知り合いに情報を伝えるよう呼び掛けたのです。災害時にはデマや流言が広まることも多く、テレビやラジオで信頼できる情報源からの確かな情報を得るよう呼び掛けるのが常で、今回の放送はかなり踏み込んだものと言えます。

 今後の記録の参考とするため、最初にその呼び掛けがなされた午前6時台の総合テレビ「おはよう日本」冒頭の模様を検証したいと思います。記事末尾には文字起こしを載せています。

当時の状況と呼び掛け内容

地震当日の『NHKニュースおはよう日本』

 NHKが最初に放送でSNSやメールによる情報伝達の呼び掛けを行ったのは、地震発生から約3時間後の午前6時4分のことでした。この時はまだ厚真町などにある震度計からデータが入らず、最大震度は安平町の震度6強でした。

 地震直後から各地で停電が起きているという情報は入っており、地震発生時のロボットカメラの映像でも揺れとともに停電が起きる様子が各地で見られました。一方で停電の規模や原因については、北海道電力も停電の発生自体は確認しているものの具体的な規模や原因、復旧見通しは調査中という段階でした。

 NHKは地震発生直後から通常の番組を中断し特番体制に移行。震度6強が判明した時点から全波一斉の臨時ニュース体制となり、「NHKニュースおはよう日本」としての放送は午前6時からとなりました。呼び掛けはこの「おはよう日本」冒頭で行われたことになります。

 呼び掛け内容は次のとおりです。

この大規模な停電によりましてテレビやラジオで情報を得られない人が多くいます。情報がないと不安や怖さが増します。北海道の揺れが強かった地域に家族や友人、知り合いがいる方、メールやSNSなどでライフラインや被害の情報、注意点など、送ってあげてください。NHKがこれから情報を詳しくお伝えしていきます。そのNHKが報じる情報を、皆さん自身が伝えてください。その際、この情報を近所のお年寄りや障害のある皆さんなどに伝えるよう合わせてお願いしてください。離れた所だからこそできるサポートをお願いします。

どのような流れの中でこの呼び掛けが行われたか、当時の総合テレビでの放送を簡単にまとめると次のようになります。

  • 午前3時18分 函館の地震発生時の映像。東京からのニュース担当の佐藤克樹アナウンサーが「この映像からすると少し市街地の電気が消えたようにも見えました」とアナウンス。これが音声による停電関連情報の最初か。(この映像が画面に流れたのは初めてではない)
  • 19分 室蘭市消防本部職員の話として、揺れが起きたあと停電になったとの情報。ニュース原稿として読み上げる停電関連情報は最初。
  • 21分 「電気やガス、水道の供給が止まる心配もあります。先ほどの室蘭市の消防本部の職員の話でもありましたが、停電をしているところもあるかもしれません。こうした情報はラジオや携帯電話のワンセグでも得られます。放送を聞いた人は周りの人にも知らせてください。こうした情報はラジオやワンセグでも得ることができます。放送を聞いた人は周りの人にも知らせるようにしてください。この地震の情報が伝わっていないという方が周りに、近くにいらっしゃいませんでしょうか。一人暮らしの高齢の方、いらっしゃらないでしょうか。どうぞ声を掛け合って安全を確認するようにしてください。ご自身の安全、身の確保ができてから、近くの方、どうぞ声を掛け合うようにしてください」とアナウンス。この地震に関して、停電を前提とした情報伝達上の注意を呼びかけたのは初めてか。
  • 24分 札幌放送局の増子有人アナウンサーにつなぐ。局に駆け付けている職員からの情報として、市内各地で信号が止まったり停電したりしているという情報はないと話す一方で「先ほどから時折スタジオの中の電気がついたり消えたりという状態も続いている」「現在停電になりまして、局内の発電設備を使って放送を行っているところだということです」とも。
  • 32分 札幌市中央区から小川裕正カメラマンの中継報告。「5分ほど前でしょうか、急に電気が消えてあたりが一面真っ暗になりました」
  • 39分 室蘭放送局の山田貴幸アナウンサーにつなぐ。室蘭駅から5分ほどの自宅で揺れを感じた後からテレビや照明がつかず、局へ来る際も信号を含め停電していたと話す。
  • この間、各地から停電情報があり、21分と同様の呼び掛けが行われる。
  • 4時11分 札幌放送局・瀬田宙大アナウンサーからの放送の中で「北海道電力広報部は『道内で停電が発生しているが、範囲や戸数、地震との関連は確認中で詳しいことは分かっていない』と話しています」。北電からの停電情報は初めて。これ以降北電からの新たな停電関連情報は、件の呼び掛けまで特になし。

呼び掛け前後の放送内容と課題

 呼び掛け前後の放送内容をまとめてみると、午前4時台後半から厚真町や安平町に記者・カメラマンが入ったり空撮ヘリが到着したりしたため、午前5時台を含めてほとんどが土砂崩れの様子の中継に費やされています。

 「おはよう日本」開始直前の午前5時台終盤も、厚真町の土砂崩れ現場の空撮映像を中心に、東大地震研の平田直教授による地震災害の解説を伝えていました。

 午前6時を回り「おはよう日本」が始まると、冒頭高瀬耕造アナウンサーが今回の災害の概要を短く伝えた後、厚真町上空、札幌駅から中継報告が入り、その後改めて東京スタジオに戻った段階で、件の呼び掛けが行われました。

 そして呼び掛け後改めて最初から地震のニュースを伝えることにし、震度、けが人の情報、土砂崩れ情報、泊原発の情報などを報じました。そして停電のニュースを伝えようとした段階で、余震の緊急地震速報が発表され揺れへの警戒を呼び掛けることになりました。

 以上から分かることは、件の呼び掛けの前後では停電関連の情報がまとまった形で報じられてはいないということです。午前6時というと、その時間に目覚ましをセットし起床する人も多いのではないかと思います。道外の揺れに見舞われていない地域では、この時間に初めて地震があったことを知る人も多いと思います。そうした人たちにも、道内への情報伝達を勧めるという段階ですから、停電関連の情報を短くでいいのでまとまった形で伝えるべきではなかったかと思います。

 なおNHKは今回の呼び掛けについて「停電でテレビやラジオから情報が得られない(被災者の)不安や恐怖を解消するための方策」と説明していて、西日本豪雨や熊本地震の災害報道を検討した結果の一つだということです

異例の呼びかけについてNHKは、同日(6日=引用者注)の上田良一会長の会見の席上、報道局の担当者が「停電でテレビやラジオから情報が得られない(被災者の)不安や恐怖を解消するための方策」と説明した。七月の西日本豪雨や二〇一六年四月の熊本地震の災害報道について検討した結果の一つで、これだけ大がかりに呼びかけたのは今回が初めてという。

東京新聞 TOKYO Web「北海道停電、TV映らず NHK、SNSで発信呼びかけ」(2018年9月7日夕刊)

「おはよう日本」6時台冒頭の文字起こし

 以下は北海道へSNSやメールで情報を送るよう呼び掛けた部分を含む「NHKニュースおはよう日本」午前6時台の放送内容の文字起こしです。言い直した際の言い間違ったほうの発言や、言いよどんだ際の「えー」「あー」などは省いています。

高瀬耕造、和久田麻由子両アナウンサー おはようございます。

高瀬 「おはよう日本」です。地震発生からまもなく3時間がたとうとしています。今日午前3時8分ごろ、北海道安平町で震度6強の激しい揺れを観測する地震がありました。津波の心配はありません。この地震で土砂崩れが起きて、複数の建物が押しつぶされるなどの大きな被害が出ていて、けが人など複数の人的被害の情報が入っています。

【北海道厚真町の土砂崩れ現場の空撮中継映像に切り替わる】

高瀬 では大規模な土砂崩れが起きている北海道厚真町の上空から中継です。

塚本観知夫カメラマン 北海道厚真町の上空です。この厚真町、至る所で土砂崩れが発生しています。崩れてきた土砂で多くの建物が押しつぶされています。広範囲にわたって土砂崩れが発生しています。警察のヘリも出ています。画面、見えてきた建物……、崩れてきた土砂で押しつぶされています。今屋根の部分しか見えません。元々どんな建物だったか分からない状態になっています。そして崩れてきた土砂でこの一帯、道路が画面の左から右に通っているのですけれども、完全に塞がれてしまっています。崩れてきた土砂は道路を越えて田畑まで流れ込んでいます、なだれ込んでいます。厚真町の上空、こうした土砂崩れの箇所が何か所も発生しています。北海道厚真町の上空でした。

【札幌駅からの中継映像に切り替わる】

和久田 続いて札幌駅です。

有水崇記者 JR札幌駅です。地震の影響で始発から全ての列車の運休が決まったJR札幌駅では、電車に乗れなかった人が駅員の説明を聴くなどしていました。札幌から関西方面に向かう予定だった女性は「昨日台風で帰れず、今日始発で函館に向かおうとしていましたが、始発から運休が決まり困っている」と話していました。先ほど駅員さん(の案内)に耳を傾ける姿が多く見られましたが、その他には自宅がある北見市に帰る予定だった男性は「今朝バスに乗って新千歳空港に向かう予定でしたが、バスが動いていないようで札幌駅に来ました。しかし電車が動いていないので、いったん様子を見て考えたいと思います」と話していました。以上札幌駅からでした。

【北海道厚真町の土砂崩れ現場からの中継映像に切り替わる】

佐藤寿康カメラマン 大規模な土砂崩れが起きた厚真町の現場です。画面の中央、田んぼに木が横倒しになっています。画面を左に振ります。建物が大きく壊れています。画面をズームしてみます。その奥では警察官が中に人がいるかどうかを確認する作業をしています。警察官や何人かの人が、中に人がいるかどうかを確認する作業をしています。さらに画面を左に振ります。こちらの建物でも大きく、建物が曲がって壊れているのが分かります。さらにこちらの道路では木が横に倒れて電線に引っ掛かっています。大規模な土砂崩れが起きた厚真町の現場でした。

高瀬 はい、各地で続々と被害の情報が入ってきていますが、この大規模な停電によりましてテレビやラジオで情報を得られない人が多くいます。情報がないと不安や怖さが増します。北海道の揺れが強かった地域に家族や友人、知り合いがいる方、メールやSNSなどでライフラインや被害の情報、注意点など、送ってあげてください。NHKがこれから情報を詳しくお伝えしていきます。そのNHKが報じる情報を、皆さん自身が伝えてください。その際、この情報を近所のお年寄りや障害のある皆さんなどに伝えるよう合わせてお願いしてください。離れた所だからこそできるサポートをお願いします。では地震の情報を最初からお伝えしていきます。今日午前3時8分頃、北海道安平町で震度6強の激しい揺れを観測する地震がありました。この地震による津波の心配はありません。

【地震発生時の苫小牧の映像に切り替わる】

高瀬 地震発生時の北海道苫小牧市の映像です。揺れが続いた後、街の明かりが消えました。この後大きく光る様子が確認できました。

【震度地図画面に切り替わる】

高瀬 各地の震度は、震度6強が安平町。震度6弱が千歳市。震度5強が札幌市北区、苫小牧市、江別市、三笠市、恵庭市、長沼町、新ひだか町。

【地震発生時の新千歳空港の映像に切り替わる】

高瀬 震度5弱が函館市、室蘭市、岩見沢市、登別市、伊達市、北広島市、石狩市、新篠津村。同じく震度5弱が南幌町、由仁町、栗山町、白老町などとなっています。

【地震で損壊した北海道安平町の建物の映像(午前5時前撮影)に切り替わる】

高瀬 また震度5弱以上の揺れが推定されるものの、データの入っていない市町村があります。大きな被害の映像が入ってきている北海道の厚真町、また、むかわ町、日高町、平取町、新冠町です。この他震度4の揺れを北海道の各地と青森県で観測し、東北の各地や関東、それに新潟県で震度3から1の揺れを観測しました。気象庁の観測によりますと、震源地は北海道胆振地方中東部で、震源の深さは37キロ、地震の規模を示すマグニチュードは6.7と推定されています。

【札幌でのインタビュー映像】

男性 怖かったです。店内がバーッと揺れて(編集点)30秒くらい、1分、分かんないですけど結構長く揺れたのかなと。(編集点)(地震時にいたのは)6階なんですけどほんと怖かったですね。

別の男性 縦に揺れる感じで、で、いきなりこう、どんと来る感じで、強く揺れるような感じで(編集点)まあ30秒くらい揺れが続く感じでした。

【気象庁記者会見映像(午前5時すぎ撮影)】

高瀬 この地震について気象庁の松森敏幸地震津波監視課長は午前5時すぎに記者会見を開きました。

松森敏幸・気象庁地震津波監視課長 揺れの強かった地域では家屋の倒壊や土砂災害の危険性が高まっているおそれがありますので、今後の地震活動や降雨の状況に十分注意し、やむを得ない状況がない限り危険な場所に立ち入らないよう、身の安全を図るように心掛けてください。地震発生後1週間程度、最大震度6強程度の地震に注意してください。特に地震発生後2、3日程度は規模の大きな地震が発生することが多くあります。

【北海道安平町の土砂崩れ現場からの中継映像に切り替わる】

大高俊之カメラマン 北海道の安平町です。こちらの道路は、大規模な土砂崩れが起こった厚真町に向かう道路です。道路際の斜面が崩れて、こちらの道路を木々と土砂が完全に埋めてしまっています。上下線とも道路は通れない状態です。今こちらには自衛隊が来て、現場の様子を詳しく調べています。北海道の安平町の現場です。土砂崩れがあって道路は完全に通れない状態です。大規模な土砂崩れが起きた厚真町の現場へは、こちら今通れない状態になっています。現場からお伝えしました。

【スタジオに戻る】

和久田 はい、ご覧のように昨日の雨で地盤が緩んでいるところに大きな地震が起きました。この後わずかな揺れでも再び土砂崩れが起きるおそれがあります。斜面からは離れて近づかないようにしてください。こうした土砂崩れなどで
すね、この地震でけが人や建物の被害が出ています。また札幌市内をはじめ北海道内の広い範囲で、交通機関やライフラインに大きな影響が出ています。

【北海道安平町、午前5時すぎの空撮映像に切り替わる】

和久田 こちらは午前5時すぎ、NHKのヘリコプターが震度6強を観測した安平町の上空から撮影した映像です。建物の壁が崩れています。こうした危険な建物からは離れて、外を通行する際も建物の壁際、外壁からなるべく離れて通行するようにしてください。そしてこちらの住宅、屋根が落ちて崩れています。安平町の消防署によりますと、これまでに地震で転倒した人など3人が搬送されたということです。

【安平町でのインタビュー映像に切り替わる】

男性 こんな強い地震は安平町では初めてなんじゃない? 家の中もぐちゃぐちゃだよ。店もぐちゃぐちゃだし。

別の男性 衝撃は結構ありましたよ。家の中のものは全部ぶっ倒れるし。

【停電した新千歳空港の映像に切り替わる】

和久田 また震度6弱の揺れを観測した千歳市にある新千歳空港では、空港内の宿泊施設で1人が軽いけがをしたということです。

【北海道函館市の午前4時前の映像に切り替わる】

和久田 震度5弱を観測した函館市でも、62歳の女性と60代の女性(テロップでは男性)がけがをしたという情報が入っています。

【北海道厚真町の大規模土砂崩れ現場の空撮映像に切り替わる】

和久田  そしてこちら、震度5弱以上を観測したと考えられるものの、震度の情報が入っていない厚真町の上空から、NHKのヘリコプターが午前5時18分ごろに撮影した映像です。ご覧のように斜面が広範囲にわたって崩れ、多くの建物が土砂で押しつぶされていたり、押し流されるようにして倒壊したりしている様子が確認できます。厚真町の消防によりますと、この地震の影響で午前4時50分現在、町内であわせて7棟の住宅が倒壊したという通報が寄せられているということです。

【泊原発の映像に切り替わる】

和久田 続いて原子力発電所の情報です。震度2を観測した泊村にある泊原子力発電所は、3基の原子炉がいずれも運転は停止中で、北海道電力によりますと停電のため外部からの電源が供給されていない状態になっていますが、非常用ディーゼル発電機6台を起動し、燃料貯蔵プールに入っている核燃料は安全に冷却できているということです。またこの地震により安全上重要な設備に異常は確認されておらず、原発周辺の放射線量を測定するモニタリングポストの値にも、変化はないということです。

和久田 北海道内の停電について北海道電力は「停電が発生していることは確認しているが……。

【ここで緊急地震速報が発表される】

(以下略。この時点で午前6時11分)