白川方明前日銀総裁が昨秋に出した『中央銀行―セントラルバンカーの経験した39年』(東洋経済新報社)は、当時の新聞書評にも多く取り上げられており興味はあったのだが、なにせ750ページ超で5千円弱する分厚い本なので敬遠していた。
先月30日、飲み会の集合場所に指定された梅田の紀伊国屋書店で、東洋経済本のフェアがあり久しぶりに目にしたのを機に読んでみようと思い、31日、アルバイトの帰りに難波高島屋の中にあるの丸善で試読していた。ここは隣のスターバックスのコーヒーを持ち込めば、決められたスペースの中で購入前の本を着席して読むことができる。
さすが話題になるだけあって面白い。第2章まで読んでみたところ、曲がりなりにも経済学部生のアドバンテージはあるのだろうが、専門的な記述も「なくはない」程度で苦労するほどではない。
逆にさすが成績不振で留年するだけはあって、これまでイメージしていた日銀の役割や行内の仕事の様子などがいかに漠たるものだったかを思い知らされた。この本は総裁時代だけでなく入行の経緯から始まり、セントラルバンカー人生を総まくりするような形になっている。第2章でちょうどバブル経済のさなかに、対外的にもバブルの危うさを警告するためのリポートを作ったときの過程が紹介される。
平成経済の回顧関連では今年、西野智彦の『平成金融史』(2019年、中公新書)も読んだが、こちらはルポルタージュチック、ジャーナリスティックな筆致で、教科書的に見聞きした人名や出来事が、実際にどう交錯したのかを追体験するという意味では面白いのだが、理論的な部分への言及が少ない点で物足りないところがあった。その点『中央銀行』は理論的な解説も押さえつつ、決断に至る当時の世論・政府や行内の空気感も書くことに注意が払われていてリアルタイムに経験していない僕ら学生にも親切な内容になっている。
前置きが長くなったが、要は、これはちゃんと腰据えて読んだほうがいいなと思ったわけだ。なにせ750ページ超である。
ところが懐事情が許さないので購入は難しい。そこで図書館の蔵書検索をしてみたら、やはりどこも予約待ち。利用者カードを持っている大阪市立図書館で21人待ち、大阪府立図書館で16人、神戸市立図書館で15人、堺市立図書館でも1人(いずれも検索当時)で、夏休み中の入手は厳しい。
公共図書館でこんな有様では、大学の図書館はもっとだろうなあと通学先の検索システムに打ち込んでみたら意外や意外、なんと「貸し出し可」なのである。マジで?と驚いた。
期末試験前に大学図書館で参考書があらかた貸し出されて、やむなく公共図書館へ赴いたら借りられたという経験は幾度かあるが、逆でしかも経済の専門書に類する著作でこんなことに遭遇するとは思わなかった。別にたくさんの冊数を納入したわけではなく、研究室で持っているものを除けば経済の専門図書館が持っている1冊だけだった。
そこで試しに、関西圏内の経済学部ではライバルといってよい京大、阪大、大阪市立大の図書館も調べてみたら、これがなんと3大学ともやはり検索時点では誰も借りていない。
さすがに一度も借りられていないはずはなかろうが、「大学で経済を学ぶような人たちだから、発売後すぐに借りて読んだか、ちゃんと買って入手している」という極めて好意的な予想はおそらく外れな気がする。案外そんなもんなのだろう。
まあ図書館資料というのは、貸し出されるためだけにあるのではない。とはいえ、あまりの不均衡にちょっと市民の皆さんに申し訳なく思わないでもない(一応、阪大は市民にも直接貸し出すサービスをしているようだが)。
そういうわけで今日は朝一番で大学へ登り、借りてこようと考えている。