元ハンセン病患者の家族への損害賠償を国に命じた6月の熊本地裁判決について、朝日新聞は9日付朝刊で政府が控訴する方針を固めたと報じましたが、安倍首相は9日午前、控訴断念を表明しました。朝日新聞は報道を「誤り」と認め、デジタル、9日付夕刊、10日付朝刊で謝罪しました。
判決は国が元患者への隔離政策によって偏見差別を助長し、家族は離散を強いられたとして、家族541人に総額約3億7千万円の支払いを命じました。政府が控訴するとの見方が強かったものの、安倍首相が政治判断で控訴断念を決断する可能性も取り沙汰されていました。
朝日新聞は9日付朝刊の1面トップに「ハンセン病家族訴訟、国控訴へ/経済支援を別途検討」の見出しで記事を掲載。政府は控訴して高裁で争う方針を固めた一方「家族に経済的な手当てをするあり方なども検討することとした」としました。
一方NHKは9日午前2時1分、ウェブサイトに「政府が控訴断念へ」とする記事を掲載し、朝の「NHKニュースおはよう日本」でも独自ダネとして放送。さらに毎日新聞は同日付朝刊で「政府内に控訴断念論」と報じていました。
安倍首相は午前9時前、記者団に「異例のことだが、控訴をしない」と表明し、朝日記事が事実上の誤報であることが確定。午後0時29分に「誤った記事を配信したことをおわびします」と、デジタルでおわび記事を配信。9日付夕刊、10日付朝刊でも、ともに1面に同様のおわび記事を掲載しました。
さらに10日付朝刊では2面に誤報の経緯を説明する栗原健太郎政治部長名の記事を掲載。3日の党首討論会で「我々は本当に責任を感じなければならない」などの首相発言があったものの、朝日新聞は「官邸幹部への取材で、この発言を受けても、控訴の流れに変わりはない」と受け止め、「8日夕、首相の意向を知りうる政権幹部に取材した結果、政府が控訴する方針は変わらないと判断」したと説明しました。
朝日新聞記事データベース「聞蔵Ⅱビジュアル」で私が検索した限りでは、同紙が社会面の「訂正して、おわびします」の欄以外で、記事に関するおわびや経緯説明を掲載したのは、今年1月に北海道内版で掲載したギリヤーク尼ケ崎さんについての連載で事実上の盗用があったとして連載を中止し記事を取り消した旨を説明した2月1日付朝刊以来とみられます。