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映画『ザ・トライブ』を見てきました

2015年4月30日

 世間はもう大型連休に突入してるんですね。大学は暦通り授業があるのでもうちょっとの辛抱。今年は長い連休になりますから,結構いろいろと楽しめそうですね。僕もなんだかんだで予定が埋まりつつあります。

 さて,先日,映画『ザ・トライブ』 をテアトル梅田で見てきました。平日の夕方でしたので客入りはそこまででしたが,それでも上演後,客席から溜め息が漏れていました。というわけで感想を記しておきます。以下,ネタバレ注意です

ネタバレの前に

 ネタバレを含む記事では,核心に入る前に緩衝として関係のない文章を挟むことにしています。

 某架空局の活動として,夜の看板報道番組の動画を仲間の架空局の助けを借りて制作することにしました。各局からニュース映像の素材や,パッケージ映像(編集が済んだ映像)を募集して,それらをつなぎ合わせて番組にするという試みです。もちろん手前どもの局でもニュースを用意するほか,特集コーナーのために架空局の仲間と実際に会って対談を収録したりしました。いよいよ今日,動画が完成し,アップロードしながらこの記事を書いています。

 製作しながらつくづく実感したのは,「フォーマットの強さ」です。

 架空局活動として動画を作ろうという人間は,始めたての頃は持てる技術をすべて投入しようという意気で製作にあたります。そのため,見ている人間にとっては,画面が「うるさく」感じたり,荒れた画面構成に見えたりします。その後,実在放送局の番組を製作者の立場で観察する能力がついてくると,画面上の調和を意識しだします。そして最終的には安定したテロップフォーマットや番組構成を目指すようになります。

 技術がハイセンスかどうかは別として,手前どもの局の動画では割と,最終形態である「安定」のレベルに達したのではないかと思っています。「安定」の良さは,動画が長時間になっても,作る側も見る側も疲れないということです。見る側が疲れないというのはお分かりだと思いますが,「作る側も」というのはどういうことか。「安定」していない場合,製作過程もシステマティックなものになっていない場合が多いんです。すると作業が非効率になるので,疲れる,という次第です。

 今回は46分半にもわたる長時間動画になりましたんで,1か月半くらい,制作に要しましたが,それでも怠け者の僕にとっては効率的にできたほうだと思います。

閑話休題

 では,『ザ・トライブ』の感想に入ります。

 この映画は,登場人物の会話がすべて手話で行われています。吹き替え・字幕は無く,手話話者でない人にとっては何を話しているのかは想像するしかありません。

 あらすじをオフィシャルサイト(外部リンク)から引用します。

ろうあ者の寄宿学校に入学したセルゲイ。そこでは犯罪や売春などを行う悪の組織=族(トライブ)によるヒエラルキーが形成されており、入学早々彼らの洗礼を受ける。何回かの犯罪に関わりながら、組織の中で徐々に頭角を現していったセルゲイは、リーダーの愛人で、イタリア行きのために売春でお金を貯めているアナを好きになってしまう。アナと関係を持つうちにアナを自分だけのものにしたくなったセルゲイは、組織のタブーを破り、押さえきれない激しい感情の波に流されていく…。

 ちなみにこういう内容なので,R-18指定が成されています。

これは手話の映画ではない

 見た感想としては,これは手話の映画ではなく,バイオレンスムービーです。むしろ手話という表現方法は暴力性を引き立たせるための演出にすぎない,という感じです。

 僕は浪人生の頃,手話で喧嘩をしている2人組を見たことがあります。おそらく中年夫婦だと思うんですが,ファストフード店で勉強していると隣で手と手をぶつけたときの鈍い音が鳴り続けていたので,びっくりして頭を上げると喧嘩の光景でした。声は発せられていないのに,その鬼気迫る様子はとても印象に残っています。

 本作でも,その鬼気迫る様子が再現されています。この映画,BGMも一切ありません。ひたすら環境音と手話で激しく言い迫る音が響きます。それだけに,暴力と性の残酷さと感傷が引き立たされます。

 痛覚と孤独がひたすら続くこの映画で,思わず顔をゆがめたシーンは,もぐりの医師による中絶手術のシーンでした。麻酔もなしにキュレットや鉗子が突っ込まれる映像は目をそむけたくなるほど。映像自体もパンをふったりアングルが変わることなく,ある意味で「静かに」ひたすら手術の様子を映し出しています。そういう痛みを一人で背負うアナの姿と,それを知らずに求め続けるセルゲイの姿を見ながら,孤独と孤独の衝突のやるせなさを感じます。

 ここまで書いておきながらこういうのも興ざめかもしれませんが,そのほかのシーンのふつうの暴力・性のシーンは特にリアルな描写ではありません。むしろ演技らしい演技という感じ。その分,この中絶のシーンと,それを経た2人の関係のそれぞれの身勝手さ,そしてラストシーンの残酷さに,すべてが集中していく感じになっています。

 一見の価値はあると思います。ただ,映画の宣伝文句にある「愛と憎しみ」で言うところの「愛」は,まだ未分化というか,まあそこが思春期特有の身勝手さなんでしょうけれど,この映画には「愛」は無いといってもいいくらいだと僕は思います。そこを期待して観に行くとちょっと期待外れになるかなと。

 以上,『ザ・トライブ』 の感想でした。大型連休で時間のある方はご覧になってはいかがでしょうか。

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