1966年の静岡一家4人殺害事件で死刑が確定した袴田巌さんの再審請求を認めた静岡地裁決定について2018年6月11日に東京高裁は一転、再審請求を認めな一方で刑執行や拘置の停止は継続するという判断を下しました。矛盾する内容の判断に大きな批判が上がりましたが、報道機関は袴田さんの呼称について、「さん」を維持した社と「元被告」に変更した社がありました。
高裁の決定が出た当日の11日に各社ウェブサイトなどで確認できた記事では、いずれも呼称の変更はみられませんでした。読売とFNNは「元被告」、毎日は本文初出のみ「元被告」で見出しや本文初出後は「さん」、他は「さん」です。
朝日新聞
- 11日午前電子版記事 見出し「さん」▽本文「さん」
- 11日付夕刊 見出し「さん」▽本文「さん」
毎日新聞
- 10日付朝刊 見出し「さん」▽本文「元被告」▽2度目以降「さん」
- 11日付夕刊 本文初出「元被告」▽2度目以降「さん」▽写真説明「元被告」
読売新聞
- 10日付朝刊 本文「元被告」
- 11日付夕刊 本文「元被告」▽写真説明「元被告」
産経新聞
- 9日午後産経ニュース 本文「さん」▽写真説明「さん」
- 11日付夕刊 本文「さん」▽写真説明「さん」
日経新聞
- 8日付朝刊 見出し「さん」▽本文「さん」
- 11日付夕刊 見出し「さん」▽本文「さん」
共同通信
時事通信
NHK
- 11日おはよう日本 見出し「さん」▽本文「さん」
- 11日ニュースシブ5時 本文「さん」
JNN
- 11日昼ニュース 本文「さん」
- 11日Nスタ 見出し「さん」▽本文「さん」
NNN
- 11日ストレイトニュース 本文「さん」
- 11日日テレNEWS24 本文「さん」
ANN
- 11日昼ニュース 見出し「さん」▽本文「さん」
- 11日NewsAccess 見出し「さん」▽本文「さん」
FNN
- 11日プライムニュースデイズ 本文「元被告」
- 11日プライムニュースイブニング 本文「元被告」
また高裁決定を伝える記事・ニュースで「袴田事件」を見出しや本文で使っているのは毎日、読売、産経、時事、NHK、JNN、NNN、ANN、FNNでした。使わなかった社は、袴田さんが犯人でない可能性が高いのに「袴田事件」は変だろうという判断なのではないかと推測します。
地裁決定時に呼称変更
袴田さんの呼称は、静岡地裁決定のタイミングで各社が変更していました。
朝日新聞は地裁決定当日の2014年3月27日付夕刊で、1面本記の見出しと本文初出で「死刑囚」とし、本文2度目以降は「元被告」とする対応。翌28日付朝刊でおことわりを出し「これまで『袴田巌死刑囚』と表記してきましたが、刑の執行停止や釈放などを受け、今後は『袴田巌さん』と改めます」としていました。
日経新聞も27日付夕刊で、それまでの「袴田巌死刑囚」を「袴田巌元被告」に表記変更。さらに翌28日付朝刊で「『袴田巌元被告』と表記していましたが、釈放に伴い『袴田巌さん』と改めます」とお断りを出しています。
毎日新聞や読売新聞もおとこわりは出していませんが、同じタイミングで「死刑囚」を使わない表記に変えています。
共同通信の基準集「記者ハンドブック」第13版(最新版、2016年)では「人名、年齢の書き方」の「事件、事故報道の呼称」という項目には次のように書かれています。
6 再審開始の決定が出た場合は「元被告」を原則とする。決定と同時に刑や勾留の執行が停止されて釈放されたケースでは「さん」の敬称を付けることもある。
7 再審公判中は「被告」を原則とする。釈放されたケースでは敬称を付けることもある。
袴田さんの再審はまだ開かれていませんでしたので原則的には「元被告」ですが、6の2文目の規定から「さん」を使っていたことになります。
ただしこの「6」の2文目や「7」の2文目は、2010年発行の第12版にはなかったルールです。2014年の袴田さん釈放を受けて追加された可能性があります。
高裁決定受け「変更」と「維持」のお断りが
高裁で判断が覆ったわけですが、決定翌日の12日付の朝刊に呼称を改めた社がありました。
産経は呼称変更のお断りを1面本記末尾に掲載、「東京高裁は袴田事件の再審開始を認めない決定をしましたので、袴田巌さんとしてきた呼称を『元被告』とします」としました。
日経はお断りは出していませんが、12日付朝刊のほぼ全ての記事で「元被告」としており、前日付夕刊の「さん」から変わっています。ただし12日付朝刊のうち、袴田さん本人の反応について取り上げた記事のみは、見出し、本文、写真説明ともに「さん」になっており、記事の性格によって使い分けている可能性があります。
一方で共同と朝日は、逆に「さん」を維持するお断りを出しています。
共同は「東京高裁は袴田巌さんの再審開始を認めない決定をしましたが、呼称は変更しません。弁護側が最高裁に特別抗告するため決定は確定せず、袴田さんが再収監されていないためです」とし、私が確認した京都、神戸、大阪日日の各紙は全て掲載していました。
朝日のお断りは「朝日新聞は、静岡地裁の再審開始を認める決定を受け『袴田巌死刑囚』という表記を『袴田巌さん』に改めました。東京高裁は再審請求を認めない決定をしましたが、地裁が認めた死刑と拘置の執行停止は維持され、弁護側が最高裁に特別抗告を予定していることなどから、引き続き『袴田巌さん』と表記します」と、これまでの経緯を含めた詳細な説明になっています。
毎日は本文初出「元被告」2度目以降「さん」、読売は全て「元被告」とする表記をそれぞれ変えていません。
なお12日付朝刊で「袴田事件」という表現を見出しや記事中で使っていたのは、毎日、読売、産経、日経の4紙でした。
(紙面に関する記述は大阪本社発行最終版)