テレビ朝日「報道ステーション」のキャスターを務める古舘伊知郎さんが24日、来年3月で番組を降板すると発表しました。氏の手腕には賛否両論ありましたが、局の顔として、ニュースキャスターの代表格として大きな存在感を持っていたことに間違いはなく、新聞各紙や他局のワイドショーがこぞってとりあげました。
12年間番組を率いてきたキャスターが降板するとなれば、後任が誰になるのか気になるところです。そこで今回は、「ニュースステーション」から「報道ステーション」に至るまで、番組の中でキャスターがどのような役割を果たしてきたかを考察しつつ、次のキャスターにふさわしい人が誰かを考えてみたいと思います。
各ポストの役割は
会見のなかで古舘さんは、番組自体は来春以降も継続する旨を明言しています。Nステから報ステに移った際、出演者は変わったものの、番組のフォーマットが大きく変わらなかったことを鑑みて、今回の考察の前提として、番組の雰囲気は来春以降もそんなに変わらないこととします。
両番組においてメインキャスターは揺るぎない番組の軸としての存在です。もちろん久米宏・古舘伊知郎両氏とも就任当初は、それまでのバラエティのイメージとの齟齬から、画面上の違和感はあったと思います。しかし数年経てば番組に欠かせない大きな存在となっています。
そしてサブキャスター。Nステで言えば小宮悦子さん、渡辺真理さん。現在の報ステで言えば小川彩佳アナウンサーです。サブはメインキャスターと並んで番組の顔の役割を果たしますが、報ステとNステでは若干性格に違いがあります。
Nステでのサブは、高い原稿読みの能力を持ち、番組に品位を持たせる存在です。久米さんがTBSラジオ『伊集院光日曜日の秘密基地』に出演した際に語っていることですが、サブに求めたこととして「無表情で原稿を読むこと」だったそうです。といっても、本当に人間が無表情で読もうとすると自然と顔が険しく見えてしまいます。ここでの「無表情」とは、主観的な読み方をしない、ということです。久米さんのニュースを軽妙に捌く様は、番組に親しみやすさを持たせる一方で、ややもすれば軽い番組に変容してしまいかねません。せめてニュース原稿自体への信頼性を高めるためには、無機質な原稿読みを実現できるサブが必要になります。
これに対して報ステのサブは、メインの古舘さんと共に番組を進めていく役割です。このため、VTR明けに古舘さんに話を振られてコメントをすることもあります。とはいっても、コメンテーターとの会話を進めていくのは古舘さんの仕事。あくまで主導権は古舘さんにあります。
コメンテーターは番組を引き締める存在。ニュースを読み解く存在として朝日新聞編集委員などが務めてきました。現在の報ステでは憲法学者の木村草太や、政治学者の中島岳志も加入し、オピニオンにこれまで以上の価値を持たせようとしています。
このほか、スポーツ担当のアナウンサーや、スポーツ解説キャスター、天気予報担当、現場を駆け回るリポーター陣などがいます。またNステではスタジオにさらにもう一人女性のアシスタントキャスターがいましたね。
キャスターの体制は変わるのか
以上がNステ、報ステのキャスターポストの現状をおさらいしたところで、キャスターの役割は来春以降変わるのでしょうか。ここからは、これまでのキャスターポストのフォーマットを変えると、番組の雰囲気は変わってしまうのでしょうか。
例えば、今のNEWS23のような、アンカーマンとキャスターの2人を軸とする体制はどうでしょうか。NEWS23の場合、出演陣の筆頭は岸井成格さんですが、実際に進行を務めるのは膳場貴子さんです。VTR明けの第一声は膳場さんが担い、膳場さんの問いかけに対し岸井さんが答える、というかたちをとります。かといって膳場さんも、番組を仕切る、というよりは用意された原稿・スケジュールのもと進行しているという色が強く出ています。そのため、番組の良いところも悪いところも背負って引き受けるような顔が誰かはっきりしません。
これこそがNステ・報ステの番組の特徴です。番組のメインが誰なのか、視聴者皆が一度見ればわかるのが最大の特徴です。そのための演出がふんだんに織り込まれています。独りで自分の言葉で話す時間があったり、コメンテーターやサブはメインキャスターから問いかけられない限り会話に入りません。
そのため、番組の雰囲気を大きく変えない、という前提に立つならば、メインキャスターが2人いる双頭体制や、事実上はコメンテーターの役割を務める「アンカーマン」と原稿読み中心の「キャスター」のコンビ体制を敷くことはできません。原稿読みを担当するのでもなく、コメンテーターをやるのでもない、メインキャスターが必要になります。久米さんが自らの立場を「司会者」と呼んでいたのも、こうした出演者の連関から納得がいきます。
メインキャスターに求められるパーソナリティは
報ステのメインキャスターには、番組を背負って立ち、原稿読みでもコメンテーターでもないパーソナリティを持つ必要があることがわかりました。では、そのパーソナリティ、具体的にはどのようなものなのでしょうか。
一般的にニュース番組のキャスターに求められるパーソナリティを挙げてみましょう。
例えば知性。日々様々なニュースを扱う上では、博覧強記の人がもってこいです。あるいは、経験。長年にわたり現場を取材し続けてきたジャーナリストがキャスターを務めることも多いですね。
しかしこれらの性質は、報ステのキャスターにとってはさほど重要視されません。というのも、知性や経験の要素を担保する役割を、コメンテーターが果たしているからです。特に最近はその傾向が強くなっているのは、前述の木村・中島両氏の起用の件で触れたとおりです。逆にコメンテーターがいない番組や1人で進行する番組、例えば「筑紫哲也NEWS23」の筑紫哲也さんや、ニュース番組ではありませんが「クローズアップ現代」の国谷裕子さんは経験がキャスターとしての価値を担保している好例です。
そして品位は、報道番組の顔ですからある程度必要とは言え、サブが高い能力を持って冷静に原稿を読めるのであれば、これまた最重要というわけでもない……。
ここで久米さんの言葉に立ち返って見ましょう。「自分は司会者である」という言葉です。この番組は、一般的な報道番組におけるキャスターの役割よりも、司会者としての役割が求められます。それぞれ秀でた能力を持つ専門職の出演者(コメンテーターやサブなど)をまとめ上げて視聴者に橋渡しする役目です。
視聴者への橋渡し、という観点で考えると必要になってくるのは「親しみやすさ」「話術」「場を回す力」というところでしょうか。
「話術」は言わずもがな。「場を回す力」とは、共演者の特徴を引き出して視聴者に伝える力のことです。ひな壇トーク型のバラエティ番組では、ある芸人さんの話を受けて司会者が反応し、笑いのツボどころを増幅するためのツッコミや解説を入れたり、別の芸人に話を振ったりしています。この能力は報道番組にも活かせます。VTRの勘所をふまえてコメンテーターに話を回し、その解説を受けてさらに問い返したり、視聴者に語りかけたりするのは、古舘さんがいつもやっていることです。
そして「親しみやすさ」や「場を回す力」を培うために必要に重要なことがあります。それは「報道番組だけでなく様々な番組の経験が有る」ということです。実際、久米さんはラジオ、バラエティ、音楽番組と経験を積んできました。古舘さんは独特のプロレス実況を通して、与えられた状況に対して絶妙な反応を示す能力は抜群に獲得してきました。フリーアナウンサーとなり、バラエティや音楽番組も経験しています。
なお、局に所属しているアナウンサーは、組織人ということもあって「番組のあらゆるものを引き受ける」という点においてフリーキャスターよりも印象が劣ることを付記しておきます。
まとめ
まとめると、もし今の報ステのカラーを維持していくのであれば、新しいキャスターに求められる要素は「親しみやすさ」「話術」「場を回す力」といった、話題と視聴者を橋渡しできる能力にたけていることであり、それらの能力を培うために必要になってくるのは「報道以外の分野でも活躍してきたこと」です。さらにフリーの人のほうが、腕っぷし一本で戦えるほどの実力を持っているという意味でも、番組のあらゆるものを引き受けるという意味でも印象が良いということでした。
これらの要素を兼ね備える人は、多くはありません。あえて具体的な候補を挙げていくとすれば、福澤朗さんや羽鳥慎一さん、宮根誠司さんなどになるでしょうか。女性も候補に入れると、小島慶子さんや渡辺真理さんあたりでしょうか。渡辺真理さんはNステ出身ということもあり話題性十分という気もします。
ただ小島さんや宮根さんは近年、個性を強く打ち出すようになっており、周りの良さを引き出していくという色は薄くなってきているように思うので、やや厳しいかもしれません。
以上述べてきたことは、あくまでも報ステのカラーを維持するという前提の下での話です。番組を作っていくためには予算的な問題もあるでしょうし、必ずしも久米・古舘路線を継承していくことが番組のために良いことなのかどうかは、最終的には番組を見た視聴者の判断によるところです。
ただ、スポーツ紙の報道では、報ステたたき上げの富川悠太アナウンサーや、長年テレビ朝日で報道に関わり続ける長野智子さんらの名前も浮上していますが、これらの人たちがキャスターに就任すれば、番組のテイストは変容せざるを得ないのは、確実でしょう。
果たしてテレビ朝日はどんな手を出してくるのか。注目したいと思います。