多湖淳著『戦争とは何か』

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(書影は版元ドットコム)

 国際法学では戦争と平和を二分し、国家が宣戦布告などの諸条件によって戦争に突入し、その時点で法規範が戦時国際法(国際人道法)に移行する二元的世界を想定します。

 これに対し著者が属する国際政治学は、交渉が失敗した時に起こるものとして戦争をとらえます。つまり国家や反政府組織などのアクターは、相手の出方を考えながら自らの行動を決める国際政治を合理的に行為する者として捉えられ、国際政治はアクターらによる戦略的相互作用と見ます。国際政治の延長に戦争が存在する連続的な価値観です。用いる手法はゲーム理論や回帰分析などです。

 交渉が失敗する原因とは何か、起きた戦争が長引く要因は何かなどを、計量可能なデータセットを用意して実証的に解き明かすことが国際政治学の営みです。本書は、科学的に国際政治を研究する手法などの教科書的説明はもちろん、理論が実際の戦争をどう説明し得るか、日本の安全保障環境をどう見るかなどに至るまでフォローした入門書になっています。

 一つ例を挙げると、民主主義国家どうしは戦争を起こしにくいことが分かっています。一方でそれが民主主義国家自体に理由のあるものなのか、それは疑似相関で実際には、報道の自由が機能することによる情報の非対称性の低減、商業的な相互依存関係といった真の原因があるのかについては、現在も結論が出ていないといいます。

 科学的な手法の強みとして、著者は将来を見通すなどの応用可能性も強く強調しています。日本への示唆について述べた章では、「日本固有の領土」という政府の主張を教育に盛り込むことや、報道の自由を抑制することが、交渉可能な余地を減らすような世論の醸成を促しうることなどを述べています。

 このように現実の政策評価に生かせる点は科学的なアプローチの強みと言えるでしょう。逆に言えば科学的なアプローチは捨象の積み重ねであることを意識すると、どの程度まで現実政治に持ち込んでいいのか、未来予測といってもそこまでできるものなのかという疑問も常に併せながら読みました。しかし価値ある手法であることには間違いなく、個別の地域研究、政治史的アプローチとの相互のフィードバックが求められると思います。

(中公新書、2020年)

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