国政選挙の際に放送される開票速報特番は、放送ファン、とくにテロップファンにとってはお祭りである。局の総力を挙げて制作される番組だけあって、様々な視覚効果を用いて刻一刻と入る情報を伝えてくれる。
【編注】
▽2015年1月28日,小見出し追加。
昔の開票速報画面は…
さて、1983年のNNN衆院選特番「久米宏のTV選挙スクランブル」の映像を見てほしい。当時、久米宏と横山やすしが司会を務め、日曜20時台に生放送されていた情報バラエティ「久米宏のTVスクランブル」を主体とした、末恐ろしい選挙特番である。
動画中にはさまざまに興味深い箇所があるが、今回は開票速報画面のテロップに注目してほしい。2分20秒ごろから、舛方勝宏・日本テレビアナウンサー(当時)による開票速報が始まる。ここで表示される画面には、(1)選挙区、(2)定員、(3)開票率、(4)得票順位、(5)当落、(6)候補者氏名、(7)所属政党、(8)新旧、(9)得票数、の9つの要素が詰め込まれている。 面白いのは、当選確実と当選では画面の視覚効果がかなり異なるということだ。当選確実の候補者には、候補者名の横に黄字で「確」と表示されるだけだが、当選した候補者には、候補者名の横に赤字で「当」と表示のうえで、一行全体の背景が水色に変わる。最近の開票速報では、当選確実と当選はあまり区別しない方向になっている。思えばこのころは中選挙区制。いまは、当選確実と当選の区別より、小選挙区での当選と比例代表での復活当選の区別のほうが重要であるから、当選確実と当選が視覚効果として区別されることは少なくなった。
宝の持ち腐れなアレ
では、現在の画面はどうなっているだろうか。さっきの9要素に加えて、候補者の年齢も出すのは民放では一般的になった。 また、選挙区の対象地域(○○市など)も選挙区名の横に出すケースも登場している。NHKではご丁寧に地図までつけて示している。
そして何より当時と変わったのは、下に各党の獲得議席数が常時表示されるようになったということだ。さらには、当確が出ると随時その情報が画面下方に表示される。NHKは、その時点までに当確が出たり当選した候補を一覧にして画面右側に出すようにもなった。
こんなに多くの情報が表示できるようになったのは、地上デジタル放送になり、画質が向上したり、画面の縦横の比率が横長なものになったりということが大きいのだが、すると俄然存在意義を問われるのは、データ放送である。一部のテロップはデータ放送経由にしてもいいはずである。例えば、画面下方に表示されるような、各党の獲得議席数と最新当確情報はデータ放送経由の表示でも特に問題はなさそう。むしろ、各視聴者によって何を表示するかカスタマイズできるほうが、利便性は高いはず。たとえばだが、住んでいる選挙区や注目している選挙区の開票状況を画面下方に表示したいという場合もあるだろう(というか、僕がそうしたい)。TBSなんかが大好きな、ツイッター・メールで寄せられた意見を表示するテロップなんかは、日本テレビがすでにデータ放送に移行しているという実績もある。
データ放送の利用において、放送画面の上にデータ放送経由のテロップを載せるという例は、朝の情報番組における天気予報表示や、NHKの討論番組などで視聴者の意見が表示される例、スポーツ中継での活用、緊急地震速報のタイムラグ解消しかない。他はdボタンを押さないと表示されない。
デジアナ変換の終了が迫るなか、今後いっそう、データ放送経由のテロップ表示が増えれば、視聴者のより主体的な視聴環境づくりが可能となる(というより、僕が、テロップ過多が好みでないだけではという指摘は受け付けないぞ)。局の総力を挙げて放送される選挙特番に、その技術の粋を活かした新たな画面展開がされる未来を期待したい。