7都府県に緊急事態宣言、各紙の翌朝1面は

2020年4月10日

(前ページの続き)

朝日以外「発令」使用

 ところで、首相が緊急事態宣言を出すことを「発令」と表現する報道があります。デジタル大辞林によると「発令」は「法令・辞令・指示などを出すこと」と説明されています。

 「発令」は、自然災害発生時の市町村による「避難勧告」などに使われる一方、気象庁の気象警報では、市町村の判断に資する情報としての側面を重視し、同庁が「発表」に統一しています。防災分野では、国民に直接行動を求める警告としての「発令」と、状況の重大さを示す情報としての「発表」というすみ分けが成立しています。一方でマスメディアの報道では、この防災分野におけるすみ分けに合わせることもあれば、切迫感をより表伝わることを期待して気象警報にも「発令」を使う場合があります(意識せず「発令」が使われることもあるようです)。

 防災と感染症事案を同一視してよいかどうかは分かりません。ただ、今回の宣言は重大な事態であることを示すものではあるものの、宣言が出たからといってすぐに私権制限や外出自粛要請などの措置が実行されるわけではなく、実際に権限の行使主体である各知事は措置を見送っています。

 私は、知事による外出自粛要請や施設の使用停止といった場面に「発令」は取っておくべきではないかと考えます。「宣言」自体が動作を表す漢語名詞なので、「発令」を重ねるのはしつこいとも思います。しかしながら、感染拡大を防ぐ手立てが一人ひとりの行動にかかっているという啓発の重要性を考えると「発令」を使う判断もあり得るのでしょう。

 では、8日付朝刊各紙はどうだったのでしょうか。1面での使用の有無をまとめると以下のようになります。

見出し記事本文他(表、写真説明など)
朝日×××
毎日×
読売
日経
産経×
大日×
1面での「発令」使用の有無

 朝日は「発令」を全く使わず「緊急事態宣言を出した」「緊急事態を宣言した」などと表現。毎日、読売、日経は本記リード文で「発令した」とストレートに記述。産経は本記では「緊急事態を宣言した」「宣言によって」と「発令」を使いませんでしたが、関連記事では「緊急事態宣言発令を受け」とし、社のクレジットが付いた社告では「緊急事態宣言が発令されました」と書きました。大阪日日は本記共同電で「緊急事態を宣言した」などとしていますが、併載の図解では「発令までの流れ」と語を使用し、関連記事では自社記事、共同電双方で「発令」の使用が見られます。

 ちなみに安倍首相は7日の政府対策本部会議で「緊急事態宣言を発出いたします」と述べています。

首相写真、読経はマスク着用

 最後に比較するのは1面に載った安倍首相の写真です。大阪日日は掲載しませんでしたが、他の5紙は全て掲載しています。ただしどの場面での写真を使ったのかが分かれました。

 緊急事態宣言を出したのは7日午後6時前の、政府対策本部会議でのことでした。このときの写真を使ったのは読売と日経の2紙。一方、朝日、毎日、産経はその後午後7時から開かれた記者会見の際の首相を写した写真を載せました。

 対策本部会議では首相はマスクを着用していましたが、記者会見では外しました。会見時のマスク着用については耳の不自由な人々から、口の動きで言葉を認識することができなくなるとの声が上がっており、吉村知事や浜田省司高知県知事らがマスクを外す対応を取っています(吉村知事ツイッター高知新聞)。

 新聞では、要人の表情も情報の一つと捉えて写真を積極的に載せる傾向がありますが、首相もマスクを着用して感染防止に努めている様もまた情報です。各紙のニュースバリュー判断が分かれた格好です。