英字紙「ジャパンタイムズ」が12月7日付の3面に全面社告を掲載しました。内容は、11月30日付紙面で元徴用工や慰安婦に関する表現を変更するおことわりを出したことについての釈明で、外部からの圧力に屈したとの説を全面否定する一方、「読者、記者、スタッフが発展させてきた信頼関係を傷つけた」として陳謝しました。用語統一を巡って全面社告が出るのは極めて異例の事態と言えます。
編注巡り海外メディアが批判
11月30日付の紙面でジャパンタイムズは、韓国最高裁が三菱重工業に対し元徴用工への賠償を命じた記事の末尾に編注を載せていました*1。元徴用工を指す用語を“forced labor”(強制された労働者)から“wartime laborers”(戦時下の労働者)に変更し、“comfort women”(慰安婦)の定義も改めるというものでした。
以下、編注の拙訳です。
編注: 過去にジャパンタイムズは誤解を招くおそれのある用語を使ってきました。その用語 “forced labor” は第2次世界大戦の前や途中に日本企業で働くため採用された労働者を指すために使われてきました。しかし、彼らの労働条件やどのようにして採用されたかはさまざまであるため、私たちは以降、彼らを “wartime laborers” と呼ぶことにします。同様に”comfort women”は「第2次世界大戦の前や途中、日本軍に対する性の提供を強制された女性」を指すものでした。戦争を通じて、地域によりcomfort womenの経験は大きく異なっているため、今日から、私たちは「意に反して行った人も含む、日本兵に性を提供するため慰安所で働いた女性」を”comfort women”と呼ぶことにします。
これについてイギリスのガーディアン紙*2など、海外のメディアから批判がありました。同紙は、ジャパンタイムズの記者や編集者がこの決定に憤っており、決定に際し彼らに相談がなかったと報じ、政治家や活動家による歴史修正主義的な動きを懸念しています。
「編注は失敗だった」
こうした事態を受けて掲載されたのが7日付の全面社告でした。水野博泰編集主幹名で出されており、編注自体は撤回しないものの、説明が「不十分」だったことを認め陳謝する内容です。徴用工や慰安婦に関する用語の取り扱いについては、近い将来に結論を出し明確に示すとしています。以下、拙訳です。
私たちは耳を傾けます。
11月30日金曜日付のジャパンタイムズで、私たちは「慰安婦」と「強制労働」に関する言葉遣いについての編集者注を公表しました。
1年以上前に始めた数多くの議論を経て、これらの用語の説明を見直す決断は編集主幹が編集幹部と共に自ら行ったことであり、論議を呼び簡単に言うことが難しい話題の客観的視点をより反映した変更であると信じています。
複雑な問題であることを考えると、短い説明では不十分だったために、2017年6月に新体制となって以降のジャパンタイムズの方針について、数多くの思い込みを引き起こしてしまいました。
読者にとって用語変更は、私たちの決定についてより詳しく、微妙なニュアンスを含んだ説明を必要とするものでした。報道機関として、我々の責任の一つは、効果的かつ曖昧さを回避した意思疎通を図ることです。この編注はそれに失敗しました。
私たちは編注が、読者、記者、スタッフが発展させてきた信頼関係を傷つけたという事実を認識しなければなりません。このことについて謹んでお詫びします。
編注は、私たちの全体的な編集方針変更の示唆を意味するものではありませんでしたが、私たちは、これが政治的圧力の結果として誤解されかねないことを認識しています。ジャーナリストである私たちにとって辛いのは、この編注が独立した言論機関としての評判を汚したことです。私は、ジャパンタイムズが外部の圧力に屈したとのあらゆる非難を全面的に否定します。
ジャパンタイムズは長らく、独立と上質なジャーナリズムの基本原則の順守について、誇りに思ってきました。このことは変わりません。
私たちは現在、こうした議論の分かれる問題についての私たちの言葉遣いを精査、改正するための社内の議論を、より一層呼び掛けています。さらに近い将来、私たちの結論を示し、こうした論争的な話題についての私たちの説明を十分に明らかにするつもりです。
報道機関として発展するため、私たちにとって重要なことは、皆さんの声全てに耳を傾けることです。
編集主幹
水野博泰
この社告の原文は以下のリンクから読めます。
“Message from the Executive Editor” The Japan Times、2018年12月7日付。
*1:当該記事と編注は次のリンクで読めます。“South Korea’s top court orders Mitsubishi Heavy to pay compensation for wartime labor” The Japan Times、2018年11月30日
*2:“’Comfort women’: anger as Japan paper alters description of WWII terms” The Guardian、2018年9月28日。