新型コロナウイルスの感染拡大で外出や経済活動、文化事業が事実上制限される現在、NHKが打ち合わせ、リハーサル、収録まで直接一堂に会することなくテレワークでドラマを制作した。1話完結で全3話。舞台設定はすべて現在の日本だという。
4日放送の第1話「心はホノルル、彼にはピーナツバター」(作=矢島弘一)は、遠距離恋愛ですでに婚約しているカップル(演=満島真之介、前田亜季)が、本来ならハワイで結婚式を挙げていたはずの日にビデオ通話で「誓いの言葉」の真似事をするところから始まる。
ドラマには「コロナ」「緊急事態宣言」の言葉が登場する。彼氏が勤めている企業の地方支社も不況を受けて閉鎖の可能性が出てきた。現下を生きる人々の不安を盛り込んでいる。
ただ本作の良いところは、コロナをめぐる災厄がなくてもいずれ生じる2人の問題を描いたことだった。
付き合った当初は早く子どもが欲しいと言っていた彼女と、それに応えようと精子の状態を良くするためにワカメやピーナッツバターを食事に取り入れる彼氏。しかしこの日のテレビ電話で、彼女から今はまだ子どもを産む覚悟がないと打ち明けられたのを機に、過去のしこりも引き合いに出され口論へ発展する。
私たちの人生は、たとえコロナで生活に変化が起きていたとしても、コロナ以前から連続的だ。確かに元々あった問題がコロナによってより浮き彫りになった例もある(医療資源の不足、非正規労働者の立場の弱さ、教育・文化資源に対する社会の在り方など)。しかし、どれもこれも社会が抱える大文字の問題にすぐさま変換されて、つまりすべてがコロナ関連の論点に微妙に変化した上でメディアに登場している。「コロナをどうにかしないといけないから」が枕詞に付かなければ、いま社会が論じるべきものではない、そんな窮屈さがある。
まして「私の」あるいは「個人と個人の」問題は特に「不要不急」で片付けられがちだ。でも「私」が生きていくためにはコロナのことだけ考えていればいいわけではない。「不要不急」の問題にも向き合っていかないといけないのだ。
家庭に対する価値観、2人が縁をより強く結びつけることで生じる責任と覚悟といった問題は普遍的である。第一、2人がビデオ通話せざるを得ないのも、コロナだからというだけでなく、彼氏の地方転勤という事情にも由来しているのだ。こういう普遍性を、現在の特殊な社会状況を前提としたドラマで描くことは、とかく「自粛警察」に象徴されるような窮屈な社会に一石を投じる力を持っている。
一つ文句を付けるなら、こういうプライベートなビデオ通話を「Teams」でやるかな?という疑問はあったが、そこは制作上の制約もあってのことだろう。タイムリーな企画をこの素早さで実現させたNHKの持つ力をまずはたたえたい。
NHKドラマ『今だから、新作ドラマ作ってみました』
第1話「心はホノルル、彼にはピーナツバター」
作=矢島弘一 出演=満島真之介、前田亜季 2020年5月4日午後11時40分、NHK総合で放送