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樽床、宮本両候補は「前」か「元」か──衆院大阪12区補選

2019年4月23日

 衆院大阪12区補欠選挙には、無所属の樽床伸二元総務相と、共産党系無所属の宮本岳志氏が立候補していました。選挙報道では候補者の新旧を「現」(現職)、「前」(前職)、「元」(元職)、「新」(新人)の4パターンで表記するのが一般的ですが、この2氏について、各紙で表記が分かれています。

  • 「前」=朝日、読売、NHK、ANN、NNN
  • 「元」=毎日、産経、日経、共同、時事、JNN、TXN

 FNNは、樽床氏については肩書の「元総務相」しか紹介しておらず、前・元ははっきりしませんが、宮本氏は「前衆院議員」と報じています。

 「前」も広い意味では「元」と言えますが、衆院解散に伴う総選挙の際では各社とも、解散で失職した候補を「前」で扱っていることから、今回「元」を採用した社が普段から「前」を使っていないわけではありません。

 一部報道機関は表記の社内基準集を公刊していますが、肩書の「前」「元」について記載があるのは読売、時事、共同の3社の基準集です。順番に見ていきます。

読売新聞

 「前」を採用した読売新聞の「読売新聞用字用語の手引第5版」(63〜64ページ)は次のように定めています。

 (1)「前」は、当人の直接の後任者が現職にある場合、または当人が辞任後まだ後任者が決まらない場合に使う。
 (2)「元」は、当人の直接の後任者が辞任した場合、副社長など複数ポストの人が辞めた場合、称号、身分、職業、制度などが変わった場合に使う。(後略)
 (3)選挙による公職(衆・参両院議員、地方議員、知事、市町村長など)の場合、解散、または任期満了後は、現職者は「前」となり、前職者は「元」となる。

 今回の補選は議員死去に伴うものなので(3)は関係ありません。(1)(2)で「後任者」というキーワードが出てきました。

 2017年の衆院総選挙で樽床氏は希望の党の、宮本氏は共産党のそれぞれ比例代表近畿ブロックで当選しました。よって2氏の辞職後それぞれ馬淵澄夫、清水忠史両氏が繰り上げ当選し、現在も衆院議員です。よって「直接の後任者が現職にある」を満たしているので(1)の規定から「前」となります。

 衆院議員は「複数ポスト」と考えることもできるので(2)から「元」を使うという考え方も成立するようには思います。ただ、2017年に自民党の衆院比例東海ブロックで当選し、刑事告訴されたことを受けて辞職した田畑毅氏についても「前衆院議員」と書いていますので、複数ポストという捉え方はしていないのではないかと思います。

共同通信

 「元」を使った共同通信「記者ハンドブック第13版新聞用字用語集」(535〜536ページ)はこちらです。

 (1)「前」は、当人の直接の後任者が現職にある場合、または当人が辞任後まだ後任者が決まらない場合に使う。(用例省略)
 (2)「元」は〈1〉当人の直接の後任者が辞めている場合〈2〉副社長など同じ地位に複数の人物がいる役職の人が辞めた場合〈3〉称号、身分、制度などが変更された場合〈4〉当人がある職業を辞めた場合―に使う。(用例省略)
 (中略)
 (5)選挙記事の国会議員、地方議員、知事、市町村長などは、解散または任期満了や辞任後、後任が就任するまでは「前」、それ以降は「元」となる。

 (5)のルールに当てはまります。樽床、宮本両氏の辞任後、すでに後任が就任していますので「元」となります。

 逆に、沖縄県知事選で玉城デニー氏が初当選した際の報道では、玉城氏の後任は決まっていませんでしたので「前衆院議員」と紹介されていました。

時事通信

 さて、厄介なのが時事通信です。「元職」を採用していますが、「最新用字用語ブック第7版」(527〜528ページ)を見てみましょう。

 (1)「前」は、当人の直接の後任者が現職にある場合、また当人が辞任後まだ後任者が決まらない場合に使う。
   〔例〕○○前財務相 前衆院議員○○氏
 (2)「元」は当人の直接の後任者が辞めている場合や、称号、身分、職業、制度などが変わった場合に使う。(後略)
 (3)選挙による公職(衆参両院議員、地方議員、知事、市町村長など)の場合、解散または任期満了、解職後は、それまでの現職者は「前」となり、前職者は「元」となる。ただし、任期満了選挙で、任期切れの前に選挙が行われる場合は「現」「前」となる。

 (3)の規定については「解散または任期満了、解職後は」とありますので関係ないように見えます。とすると、「当人の直接の後任者が現職にある場合」に該当するので(1)が適用されて「前」となりそうです。(2)の「職業」に当てはまるので「元」なのかなとも思いましたが、(1)の用例で「前衆院議員」があるので矛盾します。

 議員辞職した田畑毅氏は「元衆院議員」としています。一方で2017年の衆院選で落選した松浪健太氏は「前衆院議員」、同選挙に出馬せず政界引退した赤枝恒雄氏も「前衆院議員」と紹介しています。

 よって、自ら辞職したかどうかで分かれるのかなとも推測したのですが、暴言問題で明石市長を辞職した泉房穂氏は、出直し選挙で当選した際「前市長」と報じられているので、謎は深まるばかりといった状況です。

その他

 その他、問い合わせで判明したものについて。

 「元」を使った毎日新聞は、選挙記事では同じ選挙区で前回の選挙で当選した人を「前」としているということです。樽床、宮本両氏は前回衆院選は比例代表当選だったので、選挙区が違うということで「元」にしたという回答でした。

 同じく「元」を使った産経新聞は、そもそも選挙報道では「現」「元」「新」の3種表記を原則とし、任期切れ、首長辞職、議会解散に伴う選挙のみ「前」を使うというルールだそうです。

 「前」を使ったNHKは、「前」を使う場合は(1)解散総選挙の場合(2)衆参補選で現職議員が立候補するため辞職または自動失職した場合(3)首長や議員の任期途中辞職や不信任などによる失職を受けた選挙の場合──の3パターンとのことです。今回は(2)に当てはまるわけですね。

 同じく「前」を使った朝日新聞は前回選挙まで現職だったか、前回選挙で当選した後に辞職した場合は「前」として報じることになっているそうです。

参考文献