今週のフロント
待鳥聡史著『民主主義にとって政党とは何か─対立軸なき時代を考える』
政党システム論、政党組織論を押さえた内容なので、同じ著者の『代議制民主主義─「民意」と「政治家」を問い直す』(中公新書、2015年)と重なる部分も多いのですが、本書の面白いのは実際の日本の政党政治の歩みに適用して解釈を試みている部分です。
例えば「国会は、国権の最高機関」という憲法条文について、憲法学では「政治的美称」で意味はないと解釈するのが通説になっています。しかし著者は、議院内閣制が「委任と責任のシステム」を単線化している仕組みである以上、この条文を積極的に評価しています。
委任と責任のシステムとは、有権者が政治家に政治を委任し、政治家は官僚に行政の実務を委任する代わりに、官僚は政治家に、政治家は有権者にそれぞれ委任されたことを実際に行っているかどうか説明する責任を持つという代議制民主主義の仕組みを指します。大統領制では国民が大統領と議会双方を選び、また双方がそれぞれ官僚に対する指揮系統を持っているため、システムは複線的です。一方議院内閣制では衆院の多数派が内閣を組織することから、単線的なシステムになっています。
旧憲法下の日本においては内閣、国会、軍部いずれも、責任の方向は天皇に向かっていました。各機関を事実上作った人である元老が力を持った時代はそれでもよかったのですが、元老らが引退し政党政治に基づいて国会の多数派が内閣を組織する状態になると困ります。内閣は国会に責任を持つわけではないし、また軍部大臣現役武官制の下では軍部を抑えられる者もいないからです。
そうした歴史を踏まえると、現憲法の仕組みは、最終的に有権者に委任と責任のシステムを単線化させ、これにつながらない機関をそもそも作らない格好になっています(裁判所は違いますが)。アメリカの憲法観を汲んだ三権が対等に分立するモデルよりも、内閣が国会に対して説明責任を持つ構造こそが重要と指摘します。
このように憲法学と政治学では中心的理解が異なる様が何点かみられるのが興味深く感じました。
(ミネルヴァ書房「セミナー・知を究める」、2018年)
レビューしたもの
- 同人誌即売会「のりものターミナル2020」シキボウホール(2020.3.1)
- 佐藤滋、古市将人著『租税抵抗の財政学―信頼と合意に基づく社会へ』岩波書店「シリーズ現代経済の展望」(2014)


見た
テレビ番組
- アニメ『映像研には手を出すな!』第8話「大芝浜祭!」伊藤沙莉、田村睦心、松岡美里ほか 原作=大童澄瞳 監督=湯浅政明(NHK、2020.2.24)
- 北海道テレビ『水曜どうでしょう』最新シリーズ第6夜(2020.2.5)
聴いた
ラジオ番組
- TBSラジオ『荻上チキSession-22』特集「NPT核拡散・防止条約、発効から50年。 核問題の行方は?」荻上チキ、南部広美、太田昌克、佐藤丙午(2020.2.26)
読んだ
書籍
- 服部龍二『高坂正堯―戦後日本と現実主義』中公新書(2018)
ウェブで読めるもの
- Kikka『【悲報】筆者、“筆者の考え”を正確に読み取れず 立命館大准教授の著書が名門中学校の入試に→本人が挑戦も不正解に』ねとらぼ(2020.2.25)
- 大竹文雄『人文学・社会科学の社会的支持を向上させるために』note(2018.8.23)
- 田中辰雄『ゲームは学力を低下させるのか――香川県のゲーム条例について』シノドス(2020.2.26)
- 辻田真佐憲『「理髪業者にマスクをかけさせよ」 100年前の“感染症騒ぎ”は新型肺炎とそっくりだった?』文春オンライン(2020.2.24)
- 辻田真佐憲『「ヒロヒト、ヒロヒト……」昭和天皇は二・二六事件で何を語ったか』現代ビジネス(2020.2.26)
- 中島ヒロト『FM802「MEET THE WORLD BEAT 2014」中止〜その時、僕らは』Yahoo!ニュース個人(2014.8.16)
- 細馬宏通『オープニングで考えるアニメーション 「映像研には手を出すな!」の巻(2)』NEWREEL(2020.2.27)