カズオ・イシグロ氏ノーベル文学賞、各紙読み比べ

2017年10月6日
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2017年10月6日付の各紙朝刊

 2017年のノーベル文学賞受賞者はカズオ・イシグロ氏でした。英国人作家ではあるものの日本生まれで日系2世ということもあり、発表翌日である2017年10月6日付の各紙朝刊は軒並み1面トップで扱いました。しかしよくよく見ると、イシグロ氏をどこの国の人として紹介するかという点において、各紙のスタンスの差異が微妙に現れる結果となりました。

 今回比較するのは朝日新聞(大阪発行14版)、毎日新聞(同13版)、読売新聞(同13S版)、産経新聞(同14版)、日本経済新聞(同14版=社会面は★14版)、神戸新聞(14版)です。いずれも神戸市内で確認しました。

「日本出身」「日系」「長崎出身」

 イシグロ氏は長崎県出身で両親が日本人。5歳の時に父の転勤に伴いイギリスに移り住み、1983年に英国籍を取得しています。これを踏まえて1面の見出しを並べてみましょう(日経のみ準トップ<紙面中央>、それ以外はトップ)。

1面記事見出し

  • 朝日 カズオ・イシグロ氏文学賞 ノーベル賞、長崎出身・英作家 「日の名残り」「わたしを離さないで」
  • 毎日 カズオ・イシグロさん文学賞 ノーベル賞「日の名残り」 日系英国人、「不確かな世界」描写
  • 読売 カズオ・イシグロ氏文学賞 ノーベル賞 長崎出身、英作家「日の名残り」
  • 日経 カズオ・イシグロ氏ノーベル賞 文学賞、日本出身の英国人
  • 産経 カズオ・イシグロ氏ノーベル賞 文学賞 日本出身の英作家 「日の名残り」「わたしを離さないで」
  • 神戸 カズオ・イシグロ氏ノーベル賞 文学賞、長崎出身の英作家 「偉大な感性持つ小説」

 記事本文からも抜き出してみましょう。

1面記事本文の「カズオ・イシグロ」

  • 朝日 長崎出身の英国の小説家、カズオ・イシグロさん
  • 毎日 長崎県出身の日系英国人で作家のカズオ・イシグロさん
  • 読売 日本生まれで英国籍の作家、カズオ・イシグロ(石黒一雄)さん
  • 日経 日本生まれの英国人作家、カズオ・イシグロ氏
  • 産経 長崎市生まれでロンドン在住の日系英国人作家、カズオ・イシグロ(石黒一雄)氏
  • 神戸 長崎市生まれの英国人小説家カズオ・イシグロ氏

 読売と日経が「日本生まれ」と国単位で記述、毎日と産経は「日系」と書いた一方で、朝日はリード文の中に「日本」や「日系」が登場しないどころか、日本人の両親の下に生まれたという内容すらありません。

 読売と産経は日本名の「石黒一雄」も併記。他の新聞はリード文からは外し、毎日は記事中に一度も登場しません。

 神戸は共同通信の配信記事を使っていますが、リード文に「日本出身の作家としては1968年の川端康成、94年の大江健三郎氏に次ぎ3人目、23年ぶりの受賞となる」と書きました。産経もリード文に「日本出身の作家としては川端康成、大江健三郎氏に次ぎ3人目」。同様の記述は他紙には関連記事を含めありませんでした。

文科省は「日本人」にカウントせず

 文部科学省はカズオ・イシグロ氏を「日本人」にはカウントしていません。「文部科学統計要覧」(平成30年版)の「国別・分野別のノーベル賞の受賞者数(1901~2017年)」ではカズオ・イシグロ氏について「日本出生ではあるが、日本人受賞者には計上しない」としています。

 英国籍だから当たり前じゃないかと思いたいところですが、米国籍を取得した南部陽一郎さん(2008年物理学賞)、中村修二さん(2014年同賞)は日本人受賞に計上しています。

 「日本人」以外の計上基準は「ノーベル財団が発表している受賞時の国籍(二重国籍者は出生国)でカウントし、それらが不明な場合等は、受賞時の主な活動拠点国」としています。これらの基準をそのまま「日本人」にも当てはめるのであれば、南部さん、中村さん、イシグロさんいずれも日本人ではなくなるので、二重基準と言えるでしょう。

読売は座談会も掲載

 ところで6日付朝刊に戻ると、紙面展開は読売が群を抜きました。文化面に識者座談会を掲載しています。識者コメントだけなら各紙も掲載していますが、座談会とは用意周到です。登場したのはスラブ文学者・沼野充義、イシグロ作品に解説を寄せている作家・小野正嗣、日本文学研究者・坂井セシルの3氏。沼野は「英語で流通する世界文学の最前線の作家」と評しています。

 1面コラムで取り上げたのは日経「春秋」のみ。多様なルーツが混ざり合う文化交流を通して、排外主義はびこる世界での「寛容」の大切さを訴える内容となりました。