平成改元時の新聞報道、新旧天皇の呼称は

2019年4月30日

 いよいよ平成も最後の日を迎え、きょう天皇陛下が退位します。あすには皇太子さまが即位し、令和元年が始まります。報道の用語・表現マニアとしては、あすの朝刊でこの2人をどう書くのかがややこしくなりそうと思っています。単に「天皇陛下」と書くとどっちがどっちか分からん!ということもありそうです。

 昭和天皇が崩御し、今上天皇が即位した際の報道はどうだったのか、図書館で朝日、毎日、読売、日経各紙の縮刷版を見てみました。

7日付夕刊

 号外を除けば、崩御の初報は当日の1989年1月7日付夕刊でした。この際「天皇陛下」「陛下」と書くとたいてい裕仁天皇を指し、記事によって紛らわしい場合は「故陛下」(朝日)、「亡き陛下」(読売、日経)が使われました。

 一方、即位した明仁天皇は「新天皇陛下」と書かれることが多く、2度目以降を「新天皇」(朝日)、「新陛下)(日経)などと略記する新聞もありました。

8日付夕刊

 さて、翌8日付朝刊では表記が分かれます。「昭和天皇」という表現がみられ始めます。厳密には7日付夕刊でも見出しに取る社がありましたが、本文でことわりなく使うのは8日付朝刊が最初。毎日と読売が「昭和天皇」を使い、裕仁をしのぶ内容の記事では「天皇陛下」も引き続き使われました。

 一方朝日は「故天皇陛下」「故陛下」、日経は「天皇陛下」「亡き陛下」を使い続けます。

 正式には贈り名(諡)としての「昭和天皇」は即した明仁が後日決めることになっています。このときは1月31日になってやっと正式に決まりました。崩御後に贈り名のない段階では慣例的に「大行天皇」と呼ばれますが、報道では皇室の専門語はなるべく使わないという立場から、崩御後の紙面でもほぼ使われていません。

 「昭和天皇」を先取りするか、あくまで贈り名がまだないものとして「故天皇陛下」「亡き陛下」を使うかが分かれました。

 明仁に対しては引き続き「新天皇陛下」を各社とも使っています。

9日付朝刊以降

 8日は日曜日でしたので夕刊がなく、次は9日付朝刊。ここで毎日新聞は明仁の呼び名を原則、新の付かない「天皇陛下」に切り替えます。

 毎日とともに「昭和天皇」を使っていた読売は、明仁を引き続き「新天皇陛下」とよび、新を取った表現を原則にしたのは10日からとなりました。

 朝日、日経は引き続き「新天皇陛下」を継続使用。本文で断りなく「天皇陛下」を使うようになったのは1月14日付朝刊、竹下首相が新天皇即位後初の内奏をしたという記事で、見出しでは「新天皇」が使われました。その後次第に明仁が登場する記事は減りましたが、最終的に裕仁=「昭和天皇」、明仁=「天皇陛下」となるのは1月31日を待つことになります。

今回は

 さて、今回の代替わりは、天皇陛下の退位後の呼び名が「上皇」となることが決まっていますので、代替わり以降、「上皇」をすんなり使うという流れになるのではないかと思います。

 上皇への敬称がどうなるかも気になります。宮内庁としては上皇、上皇后には「陛下」を付けることにしていますが、報道でも「陛下」を使うかどうかは疑問です。報道では「陛下」は天皇のみに使うのが原則で、皇后にも「さま」を付けるルールです(「天皇皇后両陛下」は例外)。現在は香淳皇后と呼ばれる、昭和天皇の妻が崩御した際には「皇太后さま」が使われています。こうした前例からも、報道では「上皇さま」「上皇后さま」が主流になるのではないかと予想します。

 なお、平成改元時は、天皇崩御を想定すること自体がタブー視されていたこともあり、昭和天皇をしのんだり昭和時代を回顧したりする記事は、改元後に掲載されています。せっかく「平成」になったのに、昭和天皇関連の記事ばかりが掲載され続け、新天皇関連はほとんどないという状態でした。

 今回は計画的な代替わり。ぜひ改元後は新天皇や、天皇制のこれからを考えるような記事をたくさん載せてほしいと思います。