【注】筆者は法学について専門的に学んだことはありません。本記事はメモとして公開するものであり、内容の妥当性は保証できません。
7日に投開票された統一地方選の前半戦で、珍事が起きました。
報道によると、兵庫県議選に立候補した諸派・新人の原博義候補が、公職選挙法の居住要件を満たさず、被選挙権がないことを選管が把握していたにもかかわらず、事前公表せず、同候補の得票約3千票は無効となりました。
事前公表しなかった理由について県選管は、過去の判例を根拠としています。
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201904/0012222475.shtml県選管によると、原氏は3月29日に伊丹市選管に立候補を届け出た。この際、同法が定める戸籍などの資料のほか、住民票の写しなどを提出。その後、同市選管が県内での居住歴を調べたところ、今月2日になって、居住歴から被選挙権がないことが判明した。県選管は、原氏に被選挙権がないことを周知しなかったことについて「1951年の福岡高裁の判例で周知が選挙の妨害に当たり、違法とされていたため」とする。
神戸新聞NEXT|総合|居住日数たりず得票数ゼロに 兵庫県議選・伊丹選挙区の新人(2019年4月8日)
この判例は、1951(昭和26)年11月30日の福岡高裁判決、事件番号昭26(ナ)5号です。行政事件裁判例集であれば2巻11号1913ページに載っているそうです。
それによると
- 選挙人名簿への登録と被選挙権は完全に無関係であり、名簿に登録がなくても選挙期日に被選挙権があれば有効に当選人たり得る
- 被選挙権の有無(ここでは居住要件を満たしているかどうか)は開票手続きの際に選挙会が決定すべきことである
- よって、候補者に被選挙権が実際にあるかどうかにかかわらず、選挙期日の前に、特定の候補者に被選挙権がないことを一般に公表することは、候補者の選挙運動を著しく妨害する結果を招き、選挙の自由公正を害するので違法
という判断のようです。今回の兵庫県選管はこの判断に基づいて、事前公表しなかったというわけです。
原氏は朝日新聞の取材に「被選挙権の要件を勘違いしていた」と答えた一方、読売新聞の取材には「市選管と県選管から告示前に被選挙権がないとの説明を受け、得票はゼロになると認識していたが、政治勢力を拡大するため立候補した」と話しているということです。
選管の対応への批判も当然上がっており、岩井奉信・日本大学教授は「立候補の資格がない人の選挙運動を妨げることより、有権者の投票が無駄になることを防がなかったことの方が問題。無効となった2992票は少ない数字ではない。有権者の投票を優先する対応を検討すべきだったのではないか」と読売新聞の取材に指摘しています。
なお1951年の裁判は、長崎県議選に立候補し、居住要件を満たさないとして得票を無効扱いとされた男性が、県選管に選挙無効を訴えたものです。県選管の当該選挙区の選挙長が管下の町村選管に、男性に被選挙権がないことを選挙期日前に通知したことは妥当性を欠くと指摘。一方、内部関係に投票の取り扱い方を指示しただけで、選挙の自由公正を害したものとは認められないと判断しました。さらに県選管や、選挙人名簿登録の申請先である仁田村(現対馬市)選管が、一般に事前公表した事実も認められないとして、原告の請求は棄却されています。
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判例の具体的な事件番号などについては、ツイッターのフォロワー、きょうこうさんに情報提供いただきました。判例に関する記述は大阪府立中之島図書館で、裁判例データベース「Westlaw JAPAN」から入手したものをもとに、筆者が要約して書きました。
候補が被選挙権なしと判明、選管は周知せず 投票無効に:朝日新聞デジタル
https://digital.asahi.com/articles/ASM48006QM47PIHB00Z.html