「3.11以前」を朝日新聞縮刷版で振り返る

2019年3月11日

 東日本大震災から8年がたちました。あの日、地震の前に何をしていたのか覚えていますか? あの地震さえなければ多くの人にとって、3月11日は、3月10日の翌日で、3月12日の前日である、ただそれだけの日常の一コマだったのではないか。そんな思いもあります。

 あの地震が起こる前、社会では何が起こっていたのかを、朝日新聞の縮刷版を頼りに振り返ってみたいと思います。

【政治】「首相に違法献金の疑い」朝刊にスクープ

 朝日新聞の11日付朝刊は1面トップにスクープを載せました。「首相に違法献金の疑い/104万円 在日韓国人から」。

 菅直人首相が2006年と2009年に、在日韓国人系金融機関の元理事から計104万円の献金を受けていたことが判明。この元理事が韓国籍だったことから、外国人の政治献金を禁じる政治資金規正法に触れる可能性があるという記事でした。

 当時の政権は6日に前原誠司氏が在日韓国人の女性から献金を受けたとして、外相を辞任したばかりで、野党の自民、公明両党は11日の参院決算委員会で首相を追及。菅氏も献金を受けた事実は認めた上で、元理事が「外国籍だとはわからなかった」(朝日11日付夕刊1面)としました。

 さらには民主党の土肥隆一衆院議員が、ソウルで開かれた日韓キリスト教議連の会合で、日本が竹島の領有権主張を中止する旨の共同宣言に署名したことが問題化。10日の記者会見で政倫審会長を辞任する意向を示しました。

 こうしてみると3氏の行動の是非は別として、中国や韓国との関係を巡る問題が、すでに政治の関心事として前面化していたことがわかります。

 8年前の春も統一地方選を前に地方政界もあわただしく動いていました。石原慎太郎東京都知事が4選出馬を11日の都議会本会議で表明。石原氏は引退の方針を周囲に伝え、松沢成文神奈川県知事が後継候補とされていましたが、一転し本人が出ることとなり、松沢氏は14日に石原氏同席で記者会見を開いて出馬撤回を言明しました。

 一方沖縄に目を向けると、ルース駐日米大使が仲井真弘多県知事と面会し謝罪しています。この頃、当時の米国務省日本部長だったケビン・メア氏が前年12月に「沖縄県民はゆすりの名人」と発言したことが明らかになりました。普天間基地移設をめぐり鳩山前政権が「最低でも県外」を断念するなど、基地問題は混迷を極めていましたが、2019年現在もいまだ解決をみていません。

【国際】リビア内戦激化 NZ地震で日本人も犠牲

 世界は「アラブの春」のさなかにありました。11日付朝刊国際面の多くは、カダフィ大佐が最高指導者だったリビアの情勢に割かれています。

 2月に反政府デモがあってから内戦は激化。3月上旬には政府軍は反体制派の首都進出を防ごうと、地中海沿岸の石油関連施設を相次いで空爆。7日時点のレギュラーガソリンの店頭価格(全国平均)が2年5か月ぶりに145円を突破するなど、日本経済にも影響が及びました。

 17日には東部の要衝を政権側が奪還。しかしNATO軍の介入などもあり、一進一退ののち8月には反体制派が首都トリポリを制圧、10月にはカダフィ氏死亡の報が世界を駆け巡りました。

 ニュージーランドでは2月22日、マグニチュード6.1の地震があり、南部クライストチャーチでは、研修中の富山の外国語専門学校の学生らが建物の下敷きになるなどし、28人の日本人が亡くなりました。

【経済】証券取引所再編の動き

 10日付夕刊1面は黒ベタの横見出しで「東証・大証 統合協議へ」がトップをかざりました。同日付朝刊では準トップで大阪証券取引所が東京工業品取引所と統合交渉を進めていることを報じており、世界の証取再編の波が日本にも波及していました。

 東証と大証は2013年に経営統合して日本取引所(JPX)グループ傘下になり、大証は現物株を東証に移設。翌年に東証のデリバティブ市場を引き受け、名称を「大阪取引所」に変え、現在に至ります。一方東京工業品取引所は2013年、東京商品取引所に名称を変えて現在も存続していますが、朝日新聞は2018年10月、JPXとの統合が検討に入ったと報じています。

【スポーツ】大相撲、八百長受け春場所中止に

 相撲界は2010年の野球賭博問題に続いて今度は八百長が明るみになりました。2月に春場所の開催中止が決まって以降、放駒理事長らがおわび行脚に回り、また八百長問題の調査や処分を巡ってごたごたが続いていました。

 3月上旬は夏場所を開催するかどうかを巡る議論が行われており、10日の横綱審議委員会では出席した10人の委員全員が開催を求めたことが、11日付朝刊で報じられています。結果的には力士の「技量審査」として無料開催が決まったものの、NHKは中継を見送りました。

【社会】「知恵袋」に入試投稿で予備校生逮捕

 京都大学の入試中に試験問題がヤフー知恵袋に投稿された問題は、3日に受験した19歳の予備校生が大学の業務を妨害したとして逮捕されました。10日付夕刊には問題後初めて行われた京大入試の合格者発表が行われています。

 当時ワイドショーは、高性能の小型カメラを使ったのではないかとか、協力者がいたのではなどと、さまざまな見立てを報じましたが大山鳴動して鼠一匹。単純なカンニング行為だったことがのちにわかりました。本人が反省している点などが重く見られ、7月に山形家裁が不処分を決定しています。

 11日付社会面にはコメディアンの坂上二郎さんの訃報が載っています。10日に76歳で亡くなりました。「コント55号」の相方、萩本欽一さんが10日に羽田空港で涙をこらえながら記者会見しています。

 東京・上野動物園に中国から来たジャイアントパンダの日本での名前が9日発表され、「リーリー(力力)」「シンシン(真真)」に決まりました。2頭からは2017年、「シャンシャン(香香)」が生まれました。

 そしてこの頃はちょうどJRのダイヤ改正の季節。12日には九州新幹線鹿児島ルートが全通し、これを記念する式典が行われる予定でしたが、震災を受けて中止されました。その後もさまざまなイベントが「自粛」ムードで相次いで中止されていきました。

私は中学の卒業式だった

 最後に私の「地震前」の記憶を。2011年3月11日は中学の卒業式でした。2月末は第一志望の高校合格が決まっていました。そんな事情もあり卒業生代表で答辞を読んでほしいと打診され、あまり乗り気ではなかったものの最終的には引き受けました。

 午前中答辞を読み、式後に友人らと記念写真をたくさん撮影。午後1時ごろには帰宅しアルバムを見返していたかと思います。午後2時台は撮影した写真のデータをパソコンに取り込み、友人らと共有するために整理をしていました。

 すると地面がゆったりと揺れていることに気付きました。室内灯のぶら下げひもが左右に揺れていることにも気付き、あわててテレビを付けると既に三陸海岸には大津波警報が出ていました。自宅のある堺市は震度3でした。

 皆さんはあの日の地震前、何をしていましたか? きょうは東日本大震災から8年。あの日から変わったこと、変わらないことは何でしょうか。本記事を思い出すきっかけにしていただけると幸いです。