ネット検索時代の国語辞典の楽しみ方 「国語辞典ナイトin大阪」

「国語辞典ナイトin大阪」の一幕

 国語辞典の魅力をマニアや編集者が語るトークライブ「国語辞典ナイトin大阪」が18日夜、大阪・日本橋のロフトプラスワンウエストであり、行ってきました。各辞典の語釈比較を楽しんだり、現代の国語辞典はどう在るべきかを考えてみたりと、濃い2時間半でした。

 国語辞典ナイトは過去9回、東京で開かれ、大阪開催は今回が初めて。 前売り券は完売で、当日は立ち見が出る盛況でした。

 出演者は、三省堂国語辞典(三国=サンコク)編集委員で著書『辞書を編む』(光文社新書)などでも知られる飯間浩明さん、ともに校閲者で国語辞典マニアの見坊行徳さん(祖父は三国の初代編集主幹・豪紀さん)、稲川智樹さん、さらにデイリーポータルZでおなじみのライター・西村まさゆきさん、編集者・古賀及子さんの5人です。

「お好み焼き」をどう説明するか

 国語辞典にはそれぞれ編集方針があり、語釈にも違いがあります。見坊さんのプレゼンでは、「お好み焼き」を例に各辞典の語釈比較でワイワイしました。

 インターネット検索でもおなじみ、大辞林(三省堂)は「水で溶いた小麦粉に、桜えび・いか・肉・野菜など好みの材料を混ぜて、熱した鉄板の上で焼いて食べる食べ物」というシンプルな説明です。広辞苑(岩波書店)は焼き方を「思いのままに」と強調しているのが面白いところ。

関西風と広島風の特徴を記述した、大辞泉の「御好み焼き」

 検索でもう一つおなじみの大辞泉(小学館)は関西風と広島風をそれぞれ個別に説明。今世紀になって初版が出た新参の明鏡国語辞典(大修館書店)は語釈に「マヨネーズ」が登場するのが現代的。岩波国語辞典(岩国=イワコク、岩波書店)は「江戸・東京の下町で『もんじ焼き』略して『もんじゃ』と呼ぶものが、もと」とうんちくが付いています。

 10巻を超える日本国語大辞典(日国=ニッコク、小学館)から重要項目を採録して3巻にまとめた精選版日本国語大辞典(小学館)は、用例が充実しており、この項では小田実の「羽なければ」(1974年)から掲載しています。日国の用例は分かっているなかで最も古いものを載せるルールなので、「お好み焼き」が新しめの言葉だと分かります。これより古い用例を見つけたときには、ウェブサイト「日国友の会」で編集部に報告できるそうな。

 ユニークな辞書の地位を不動のものにしている新明解国語辞典(三省堂)は「水で溶いた小麦粉に好みの材料を混ぜ、鉄板の上に流して焼いたもの」と、意外にも粗雑な説明に終わっています。「料理」とすら書いていない。

 「たこ焼き」の項目で特徴が出たのは現代国語例解辞典(現国例=ゲンコクレイ、小学館)。日本語コーパスのデータを活用して、表記に関する情報がふんだんに書かれており、見出しは広辞苑が「蛸焼」と漢字表記したのに対して、現国例は「たこ焼き」と最も多用される表記を使っています。どの表記がどれくらいの割合で使われているかを示すグラフをコラムで紹介するなど、用語表記マニアの私にとっては垂涎モノです。

 さて、飯間さんが編集委員を務める三国にも特徴が出ています。他の辞書が「球形に」などとしたところを、「ピンポン玉ほどの大きさ」と書いてイメージしやすくしているのが、三国の良さです。

紙か電子かではなく「グーグル検索」

 このイメージしやすさが三省堂国語辞典の売りだと飯間さんは言います。

 今や分からないことがあれば「辞書を引く」のではなく「インターネットで検索する」のが普通。紙の辞書は一覧性、通覧性が強みとも言われていましたが、三省堂は英和辞典で紙辞書のように一覧できるアプリを開発。新聞が紙面をタブレットやスマートフォンで見られるサービスをしているのと同様で、「紙か電子か」という区別はかつてほど重要視されなくなっています。

 そんな中で飯間さんが指摘するのは、検索で出てくる語釈の不親切さです。インターネット検索でヒットする大辞泉、大辞林はともに広辞苑のライバルに位置付けられ、百科事典的な色合いもあります。そのため説明が詳しい一方で、読んですぐにイメージできる語釈ではない場合があるというのです。

 例えば「苺」の語釈。大辞泉は生物学的な説明に始まり、詳しく書かれています。一方、三国は「赤い、小形のくだもの。やわらかくて、表面にぶつぶつがある」と淡泊ながらイメージは付きやすい説明になっています。

 ウィキペディアなんかが代表例ですが、紙幅の限りがない分、詳しく書きすぎて言葉の説明として必要なレベルを超えたものになりがちなのがインターネットの情報。そんな中で、核心をとらえた語釈を書くことで読者にとって分かりやすい辞書を作りたかったと飯間さんは話していました。

「相談相手は複数いたほうがいい」

 イベント締めくくりに稲川さんが複数の辞書を持つ意義を「相談相手は複数いたほうがいい」と説明していたのが印象的でした。用語表記マニアとしてはやはり現国例は手に入れたいところ。とても勉強になりました。

 本記事では、比較的真面目な部分を中心に取り上げましたが、他にも、語釈に添えられた写真がとてもユニークで味わいのある「ジャン国」(学習ジャンボ国語百科辞典、三省堂)の鑑賞(西村さん企画)や、面白い用例特集(稲川さん企画)、大阪の街での用例採集(飯間さん企画)、さらには三つの語釈から何の言葉を説明したものかと、各語釈がどの辞典かを当てるゲーム「超ズッキーニ」など面白企画満載でした。ジャン国については西村さんの動画を参照。

 ぜひ「国語辞典ナイト」、また大阪で開催してほしいですね。