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「=当時(24)=」表記の考察

2019年9月20日

 殺人事件裁判の記事などで、被害者の死亡当時の年齢が載っていることがある。朝日新聞は「(当時24)」と書くのに対し、毎日新聞や読売新聞は「(当時24歳)」と歳を付ける。存命人物の現年齢ならどの新聞も「(24)」と書くことが多いのだが、当時年齢の表記は揺れる。

 産経新聞や共同通信加盟の地方紙は「=当時(24)=」となる。新聞記事における「=」は二本柱や双柱などと呼ばれ、注記などに使われる記号。ここでは括弧を重ねるのと同じような使い方と言える。

産経新聞から

 そりゃ確かに理屈はあるがまどろっこしい。何かといえば字数削減に頭を使う新聞編集なのに、普通に丸括弧の中に「当時」と書くのではいけないのだろうか。しかし、この表記にはちゃんと理由があるのではないかと思うようになった。あくまで仮説なのだが結構いい線にはたどり着いた自信がある。

 仮説を思い付いたのは図書館で大昔の共同通信「記者ハンドブック」を見た時だった。用語用字の基準集で最新のものは13版だ。

 時代の移り変わりで現在の版ではすでに載っていない項目がある。例えば字解きの一覧。取材先からの連絡が電話頼りだった頃には、原稿を社まで持ち帰る時間もない場合には電話で吹き込むことがあったが、同じ音の字を区別するために「川」を「さんぼんがわ」、「河」を「さんずいがわ」などと伝えるのが「字解き」。

 現在でも氏名や地名などに誤りがないかどうかを、一人が読み上げ、もう一人が聞き取って原稿と照合して確かめる「読み合わせ」という作業で字解きの出番はあるようだが、電話送稿が減った今は記者ハンドブックに載せるほどのものではないということなのだろう。

 閑話休題。同じく今では掲載されていない項目に、文字コード一覧があるのだがこれを眺めていて、冒頭の疑問への答えが思い付いたのだった。丸括弧の一方、すなわち「(」か「)」と小さな漢数字が組み合わされたものが多数並んでいたのだ。下のリンクから実例を目にすることができる。

 新聞ではよく使うけれど、一般の情報機器にはふつう無い文字。そんな文字は、いわゆる「外字」として新聞製作システムに搭載されています。その多くは、記者が原稿を書く…
www.asahi.com

 かつて新聞記事は漢数字表記が原則だった。年齢も漢数字だったが、活字としては「開き括弧と十の位」で1字分のセットが一から九まで、「閉じ括弧と一の位」で1字分のセットが〇から九までと「つ」が用意され、これを組み合わせることで「(二四)」のように表記していたわけだ。

 件の記者ハンドブックには、括弧のない小さな漢数字だけの文字コードは存在しなかった。年齢表記だけに使う特殊文字なわけだ。だからこのスタイルの年齢表記を使うのであれば、丸括弧の中に「当時」を入れることはできないのだ。

 そこで、逆に「当時」を丸括弧の中に入れている朝日、毎日、読売の縮刷版を見てみると、当時年齢を書くときは通常の大きさの活字を使っていた。紙面で見ると不統一な感じがする。

 共同通信は見た目の美しさを優先したということなのだろう。洋数字切り替えのときに変える手もあったかもしれないが、現在でも中日新聞系列紙や福島民報、伊勢新聞などのように漢数字原則の加盟社もあることだし変更は難しかったのだろう。

 漢字を含む文字コードとしては最古級のものに、共同通信とブロック5紙の共通コードとして制定された「CO-59」というのがあるが、この中でも漢数字時代の年齢数字は確認できる(下記リンク先ページ内の「CO-59 code」というリンクをクリックすると見られる)。逆に洋数字の連数字が59までしかないのが興味深い。