各紙の「本来の意味」観――文化庁国語世論調査の報道から

2018年9月26日
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文化庁が発表した2017年度「国語に関する世論調査」から。ゴシック体になっている意味が本来の意味とされるもの

 文化庁が25日、2017年度「国語に関する世論調査」の結果を発表し、報道機関もニュースとして取り上げています。同調査では毎年、言葉の意味や言い方が変わってきている言葉の使用実態についても尋ねており、その結果が報道で大きく扱われるのが定番です。

文化庁では,国語施策の参考とするため,平成7年度から毎年「国語に関する世論調査」を実施しています。この度,平成29年度に実施した結果がまとまりましたので,発表し…
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 この時文化庁は「本来の意味(言い方)」ともう一つの意味(言い方)を示し、どちらを使うか、あるいは両方使う、両方使わないの四つを回答の選択肢に挙げて調査しています。この「本来の」をどう解釈するかについて、三省堂国語辞典編集委員の飯間浩明さんは昨年9月、次のようにツイートしています。

 つまり「本来の=正しい」ではない、ということですね。言葉は変化するものであり、正誤を簡単に判断できるものではないということです。

 以上を踏まえて今年の各社の報道で、この点についてどのような配慮があったのでしょうか。見比べてみたいと思います。

 今回、調査でまな板に載せられたのは、意味に関して、檄を飛ばす▽やおら▽なし崩し――の3語句、言い方に関しては、采配を振る▽溜飲を下げる▽白羽の矢が立つ――の3語句でした。

 文化庁の発表通り「本来の」という表現にとどめているのは朝日、読売。それ以外の毎日、産経、京都、神戸、大阪日日は見出しで「×」「誤用」を用いたり、本文や図表で「正しい」と書いたりするなど、正誤の二項対立を意識する書きぶりをしていました。日経新聞は調査に関する記事自体は載せたものの、この設問は取り上げませんでした「。

 朝日は「『なし崩し』意味変わった?/少しずつ返す→なかったことに」の見出しで、「本来の意味とされる『少しずつ返していくこと』」「『檄(げき)を飛ばす』は(略)本来の意味を答える人がやや増えた」などと調査発表通り「本来の」と記しました。さらに広辞苑第7版編集責任者の平木靖成さんの識者談話を掲載し、「なし崩し」の変化を「不自然ではない」とする見方を載せています。

 毎日は「『なし崩し』→×『なかったこと』65%/『やおら』→『急に、いきなり』30%」の見出し。一面のインデックスでは「『なし崩し』誤用65%」としており、いずれも文化庁が「本来の意味」としなかった意味を誤りと位置付けています。しかし記事本文を見ると「本来の」で統一。第1段落では「文化庁は『言葉は時代とともに変容する。本来の意味から派生した使われ方も誤りとまでは言えない』と説明している」と書いていて矛盾しているように見えます。あくまで文化庁がそう言っているだけで毎日としては誤用と位置付ける考え方なのでしょうか。

 読売は「『なし崩し』意味理解2割」の見出し。「本来とは異なる意味で慣用句などを使うケースが広がっていることも分かった」という書きぶり。最後には毎日同様、文化庁の「必ずしも誤用とは言い切れない」という立場を紹介しています。

 産経は「『なし崩し』本来の意味理解2割/◯借金を少しずつ返す/×なかったことにする」の見出し。本文中は「本来」で統一、さらに文化庁の「本来と違っても誤用とまではいえない」という立場も取り上げています。ただ「檄を飛ばす」について文化庁が本来と違う意味として挙げた「元気のない者に刺激を与えて活気づける」の使用割合が67.4%となったことについて「『激励』の意味と勘違いしている人が多いとみられる」としています。

 京都神戸大阪日日の各紙は共同通信の配信記事を使っています。本文を見ると「本来の意味」などと文化庁の発表に即した書き方になっています。特徴的なのは、調査内の別質問で言葉を「正しく使うべきだ」と考える人が大幅に増えたことに関する記述です。「文化庁は、テレビ番組や書籍などを通じて日本語への関心が高まっているとした上で『言葉は時代により変容する。「こうあるべきだ」と硬直的になりすぎ、他人の言葉遣いを責めることは望ましくない』としている」と、言葉の正しさを追求する世論を文化庁が牽制していることも合わせて伝えています。こう見ると朝日と近い書きぶりと思われるですが、記事とセットで載っている表「慣用句などの意味や使い方」では注釈で「◯が本来正しいとされる使い方・意味」と、「正しい」を使っています。

 共同電使用各社の見出しを見ると京都が「『なし崩し』『げきを飛ばす』理解2割/『采配を振るう』と誤認識5割/『言葉は正しく使うべき』47%、大幅増」。神戸が「『なし崩し』理解2割/国語世論調査/『正しく使うべき』14ポイント増」。大阪日が「『なし崩し』理解2割/半数以上『采配振るう』と認識/正しい言葉、意識強まる/文化庁国語世論調査」でした。京都が最も正誤の二項対立構造に落とし込むような書きぶりの見出しとなりました。「べき」を言い切りの形として使うのは「本来の」文法からは外れているんですが、そのあたり京都新聞さんはどうお考えなんでしょうか。