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沖縄県民投票、全国紙の報道比較─社説、与党反応、識者談話…

2019年2月6日

 沖縄県宜野湾市にある米軍普天間飛行場を移す計画を巡り、移設先・名護市辺野古沿岸部の埋め立ての是非を問う県民投票が24日、投開票され、72%が「反対」に投じました。投票資格者数の4分の1を大幅に超えたため、県民投票条例の規定に基づき玉城デニー知事は今後、安倍晋三首相、トランプ米大統領に結果を通知することになります。

 法的拘束力はなくこの結果をもって何かが決まるわけではないものの「県民の意思を示し、本土も含めた第三者にはっきり伝える」(坂井豊貴・慶応義塾大教授、朝日新聞2月21日)という目的は達せられたといえるでしょう。

 投票結果を各紙は25日付朝刊で大きく扱っています、と言いたいところですが読売新聞はかなり消極的な報じ方になっています。全国紙5紙を比較していきます(いずれも大阪本社発行最終版)。

〈社説〉毎日「埋め立てやめよ」産経「知事は移設容認を」

 県民投票結果を社説で扱ったのは朝日、毎日、産経、日経の4紙でした。

 毎日は「政府はただちに埋め立てをやめ、沖縄県と真摯に解決策を話し合うべきだ」と埋め立て中止を説いています。朝日も「この事態を受けてなお、安倍政権は破綻が明らかな計画を推し進めるつもりだろうか」と書いていますが、毎日のほうがさらに直接的な表現といえます。さらに毎日は、安倍政権が移設の正当性の根拠としてきた、2013年の当時の仲井真弘多知事による埋め立て承認を、県外移設を公約とした知事の「変節」の結果とし、「埋め立て承認は民主的な正当性を確保していない」と受け止めています。

 一方日経は、国と沖縄県の「双方がわだかまりを捨て、話し合いの糸口を探るべきだ」「普天間の固定化を避ける緊急避難的な措置としての県内移設はやむを得まい。(略)白紙から検討しなおすのは現実的ではない」とあくまで辺野古移設を支持する論調。基地負担減少の実感を県民に与える努力が必要としたうえで「例えば、国が『日本の安保は全国が等しく担うべきだ』と声明して」話し合いの機運を生むことを提案しました。

 産経は、結果について「日米両政府に伝えても、現実的な検討対象にはなるまい」「知事はこれ以上、移設工事を妨げたり、不毛な訴訟合戦に入ったりすべきではない。(略)普天間飛行場周辺の県民の安全確保と、国民を守る安全保障政策を尊重し、移設容認に転じるべきである」と、沖縄側に変化を求める主張を展開。一方、自民、公明が自主投票を決めて腰が引けた対応だったことについては「県民に粘り強く説く責任がある」と批判しました。

 さらに産経は、県民投票自体を「内容にかかわらず、民主主義をはき違えたもの」「移設は県民の問題であるのと同時に、県民を含む国民全体の問題だ。県民の『直接の民意』だけで左右することはできない」と手厳しく評価。このあたりは、外交・安保は政府の専管事項とする、政府の姿勢に沿った主張といえます。

 対して朝日は「知事選や国政選挙などを通じて、沖縄の民意ははっきりと示されてきた。だが、争点を一つに絞り、曲折を経て、全県で実施された今回の投票の重みは、また違ったものがある」「たしかに国の存在や判断抜きに外交・安保を語ることはできない。だからといって、ひとつの県に過重な負担を強い、異議申し立てを封殺していいはずがない」「住民の反発と敵意に囲まれるなかで基地の安定的な運用など望むべくもない」と反論する格好となりました。

 社説ではありませんが、朝日と毎日は記者論文を載せています。朝日の佐藤武嗣編集委員(1面「視点」)は政権与党の対応について、「現行案(略)の正当性を県民投票で堂々と訴えることなく、自主投票によって組織的運動をしなかった。計画見直しもせず、かといって県民を説得しようとの意思も欠いたまま、ただ惰性に任せているだけではないか」と批判。惰性を決め込む原因の一つに鳩山政権時の迷走も挙げた上で「それでも、今回の沖縄の民意は無視できない」とし、政権に自省を求めました。

〈与党反応〉投票率5割の説得力は

 各紙は総合面記事で政府、与党の反応に触れています。いずれも、政府はあくまでもこのまま移設計画を進める方針であると書いていますが、投票結果、特に投票率が50%余りとなったことについて、読売と朝日、毎日で与党の受け止め方が異なっています。

 読売の取材に自民県連幹部は「反対多数は想定の範囲内だ。盛り上がりに欠け、県民の総意と呼べない」と冷ややかな反応。昨年9月に自公などの推薦を受けて当選した松川正則・宜野湾市長は「投票率が半分だと、政府に移設断念を求めるには説得力が弱いのではないか」と指摘しています(3面)。

 一方朝日の取材に自民県連関係者は「投票率50%を切ったら『投票は無駄だった』とコメントしようと思っていたが、そうはいかなくなった」と肩を落とし、公明県本部幹部も「県民の意思が示されたのだから、政府はその結果を尊重すべきだろう」と話したといいます(2面)。

 毎日では、岸田文雄・自民政調会長が結果を受けて発表したコメントに注目し、「『辺野古』という言葉は使わず、移設への理解を言外に求めた。県側を過度に刺激しないよう神経を使ったことがうかがえる」と分析しました(3面)。

〈識者談話〉住民投票は「知事の抵抗支える根拠に」「瞬間の世論切り取る危険性」

 識者談話は朝日が研究者3人分(政治学、日本外交史、憲法学)を掲載。毎日は前岩国市長と沖縄大学長。日経は総合面に異なる論調の研究者1人ずつの談話を、社会面に哲学者の談話を紹介しています。

 朝日筆頭掲載の河村和徳・東北大大学院准教授は、民意が可視化されたとしたうえで、与党の国会議員や国民全体へ共感を広げる工夫が、実際の基地政策の反映に欠かせないと指摘しています。3人目の大津浩・明治大教授は、今回の結果が「知事の今後の抵抗を支える『法的根拠』にもなりうる」との見方。有権者の意思に基づく国会や地方議会が対話を重ねた結果が「全国民の意思」であり、一連の沖縄側の抵抗について「憲法はそういう地方自治のあり方を認めている」と評価しました。

 一方毎日は、沖縄同様に米軍基地を抱える山口県岩国市の井原勝介前市長の談話を筆頭に掲載。「国の専管事項」である国防政策は住民投票になじまないという考え方を「根本的に誤りだ」と断じ、「地方政治の役割ではないが、主権者が生活を守るために意見を言うことは自由だ。民意のない政策に正当性はない」と述べています。さらに、厚木基地からの空母艦載機移駐計画をめぐる住民投票について「住民は(略)必要性を理解すれば一定の負担を受け入れる気持ちも持っている」とし、「国と協議し合意点を探りたいと考えた」と振り返っています。ほかに仲地博・沖縄大学長の談話も紹介しています。

 日経は、岩井奉信・日本大教授(政治学)が、辺野古工事はもはや後戻りできないとしたうえで、投票前後で世論が大幅に揺れ動いた、EU離脱に関する英国民投票を例に「住民投票はその瞬間の世論を切り取る危険性がある」と指摘。玉城知事も民意をどう生かすかの具体策を示すべきだと述べています。対して岡本三彦・東海大教授(行政学)は「手続きに瑕疵(かし)はない」「論点を1つに絞ったことに意味がある」と住民投票の実施を評価。「政府は(略)移設工事は粛々と進めえるのだろう。そうなれば県民の政府への不信感はさらに強くなる」と見通し、沖縄への基地負担集中について政府に説明責任があるとしました。社会面では哲学から高橋哲哉・東京大大学院教授が「全国民が沖縄のメッセージを本気で受け止め、議論を始める時にきている」としました。

 これは私見ですが、朝日の社説で触れられた通り、過去にも辺野古移設へは県民が反対の意思を繰り返し示してきたと言え、岩井氏の「瞬間の世論を切り取る危険性」は、今回の住民投票についての評価としては無理があると思います。

〈社会面〉読売・産経は記事なし、朝日は若年層の声に重点

 一般に新聞は、ページ数の若い総合、政治、経済、国際面は理性に訴える編集がなされ、対して社会面では感性に訴えるような編集になると言われます。住民投票やその結果に否定的な論調の読売、産経は社会面での扱いはなかった一方、朝日は第1社会面全体で、毎日は第1、第2社会面の各上半分にわたって記事を展開しました。

 中でも毎日は、両面に横見出し「諦めぬ 沖縄の意志」「許されぬ見ぬふり」が1段分ぶち抜きで載っています。見開き左側の第1社会面は「反対」側の反応をまとめ、さらに人もの記事として県民投票を盛り上げようとシンポジウムを企画した琉球大1年の男子学生を紹介しました。一方右側の第2社会面は、「リトル沖縄」と呼ばれる大阪市大正区で三線教室を開く沖縄出身男性の人もの記事。その下には大阪駅で市民団体がシール投票を実施した話題も扱い、面中央に配された縦見出し「ヤマトの人も考えて」にふさわしい記事配置となっています。

 朝日は若年層の声を中心としたサイド記事。全県での投票実施を訴えハンガーストライキを行った元山仁士郎さん(27)の人ものを扱ったほか、住民投票と向き合った県民の声をまとめた形です。特に県民雑感「まだまだこれから/基地のこと 初めて深く考えた」では、20代2人、30代2人、60代1人の構成でした。

 日経は「反対」「どちらでもない」「賛成」それぞれの県民の声を掲載。賛否を超えて、県外に沖縄への対話と理解を求める声が相次いだとしました。

〈最後に〉読売、産経の当てこすり感じる

 ところで各紙は出口調査の結果を掲載しましたが(毎日は琉球放送との共同調査、産経・日経は共同通信調査)、読売は全国世論調査から「沖縄米基地『役立つ』59%」の3段見出しを立てて記事化しています(2面トップ)。

 読売は県民投票で出口調査も行っており、こちらでは「沖縄の米軍基地が日本の安全保障に役立っていると思うか」の設問に全体の55%が「そうは思わない」と答え、「役立っている」は37%にとどまっています。しかしこの記述は3面のスキャナー「投票率52% 広がり欠く」末尾に小さく載せているだけです。

 沖縄と全国で世論が乖離していることは十分ニュースバリューがあると思うのですが、関連記事として近接した場所に記事を配置するでもなく、私はずるい編集だなと感じました。

 産経も3面に「県民投票 のぞく政治的思惑/オール沖縄『野党共闘のモデルに』」の見出しで、「オール沖縄は、勝利ムードを演出するのに躍起」などと、当てこするような評価。紙面全体として沖縄県民の意思に寄り添った内容は乏しいものでした。

 その点、朝日は県民の声と写真をまとめた「この思い 届け」という特集面を組みました。「ふだん声高には口にしなくても、基地への思いを抱えて生きる、沖縄の人たちの声を聞き、生活の場を訪ねた」というリード文の通り、複雑な感情を抱くそれぞれの素朴な声を拾ったものとなっています。「本土」側にも沖縄への関心を促す試みです。

 読売と産経は記事展開が小さく「のれんに腕押し」との感は否めません。産経でさえも自民、公明の自主投票を「腰が引けた」対応と評せざるを得ない状況ではやはり、移設容認派であってもしっかりと論陣を張って主張し、沖縄の意思に対峙することが必要なはずです。報道機関であるとともに言論機関でもある新聞の原点に立ち返ってほしいと感じました。

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