日経電子版「A/Bテスト」のインパクト─見出しは「紙面」から脱却するか

 日経電子版のプロダクトマネージャー武市大志さんが昨年12月に投稿したnote(リンク)がとても示唆に富むものだった。記事の見出しとサムネイルについてA/Bテストを実施し、その結果の一部を明らかにしている。

クリックされる見出しとは

 例えば実例1の「数字が含まれている方がクリック率が高い」は、紙面編集でも同様になされてきた。1989年7月8日付の読売新聞記事「[あなたと読売新聞]良い見出しの付け方は?」にも、次のようにある。

見出しに数字や漢字が並ぶことがあります。これは時々刻々に変化する経済や世界の動向を正確に伝えるため、現在の時点で最も重要な政策、数字、人名などが見出しになるからです。

 興味深く感じたのは、実例2の「固有名詞が含まれている、かつ先頭にあった方がクリック率が高い」。固有名詞を見出しのどこに配置するかを含めて検討していた。

A:世界220工場に通報制度 ユニクロ、労働環境を改善
B:世界220工場に通報制度 労働環境を改善
C:ユニクロ、世界220工場に通報制度 労働環境を改善
Cの勝ち。Aと比較してクリック率57%アップ。Bと比較すると3倍近い差に。

紙面の制約「1本10字」

 一般に新聞の見出しは、1本につき10字前後というのが相場だ。これ以上になると、文字を縦や横にかなり潰さないと紙面に入らない。共同通信社の『記者ハンドブック 新聞用字用語集』(第13版)では、句読点やカッコなども含め、主、脇見出しは12字以内、3本目以降は11字以内と決められている。3本以上になるのはトップ級の記事だから、通常記事は2本だ。(498ページ)

 Aは前半の「世界220工場に通報制度」、後半の「ユニクロ、労働環境を改善」ともに12字ずつ。新聞整理の伝統的手法に沿った形だ。

 しかしウェブニュースのフォーマットは違う。ヤフートピックスの13.5字のような極端なケースは別として、新聞系ニュースサイトの見出しは通常20~30字で1行というのが通常になった。

 かつては新聞同様に「10字前後×2本」で作り、2本を横に連ねただけのものが多かった。現在でも時事ドットコムは「=」や「─」で見出しをつなげて書くスタイルを続けている。

 だが最近はデジタル向けにアレンジする社も増えた。先日の拙記事でも朝日新聞デジタルが、紙面とは大きく異なる見出しを採用する例を紹介した。

 前出のA/Bテストで圧倒的な読者の支持を得たCは、「ユニクロ、」の場所を移しただけに過ぎない。しかし、新聞紙面への特化から脱却する一歩として大きいと感じた。主語や記事の主題などのキーワードは先にあった方が分かりやすいということが、計量的に示されたのは重要だ

変わらない理想


2019年1月18日付神戸新聞朝刊

 ちゃぶ台を返すようだが、実は紙面でも、字数制約を克服してキーワードを頭に出せる。縦見出しの上に小さく横書きするやり方だ。上写真の「北朝鮮高官」がそれだ(2019年1月18日付神戸新聞朝刊)。同時にさりげなく、見出しに使える字数を増やすのに成功している

 ならばネットでも字数制約を緩めればよいじゃないかという考え方もある。実際産経ニュースは一時期、他の新聞系メディアよりも字数が多かった。しかし2018年10月にデザインをリニューアルしてから、結局他と同じような長さに戻った。

 日本新聞協会が1994年に出した『新編 新聞整理の研究』では、朝日新聞のこんな試みを紹介している。1986年1月の夕刊から「白抜き2行」の見出しを取り入れたのだ。「世界経済と東西関係に/明るい展望与えたい」(/は改行を示す。以下同じ)、「山谷争議団メンバー/早朝、路上で射殺される」などの文言が、紙面4段分にまたがる一つの黒い長方形を地にして配置されている。だがこの方法は長く続かず、おなじみの標準形に戻ったそうだ。

 要は見出しとして成立する文字数には制限があるということだ。紙面でさりげなく文字数を増やすことに成功したのは、各見出しの大小にメリハリを付けているからで、「同じフォント、同じ大きさで1行」のウェブニュースには通用しない。

 前掲書には「見出しは読ませてはいけない。見せるもの。これでは迫力がない」と書かれている(太字は筆者)。くしくも武市さんの記事の結論も、趣旨は共通している。

「何について書かれた記事なのか」「それは自分が読みたい記事なのか」を一瞬で判断できるかが鍵

 媒体が変わっても、見出しが目指すもの自体は変わらないのかもしれない。

noteで初出)