大阪市議の任意聴取報道、実名・匿名分かれる

2019年5月17日

 4月の大阪市議選で運動員を買収したとして、当選した議員が公職選挙法違反の疑いで大阪府警から任意聴取を受け、容疑が固まり次第立件される見通しだと、報道各社が17日報じました。現職市議の選挙違反疑惑ということもあり多くの社が逮捕前から実名報道としましたが、朝日新聞とABC朝日放送は任意捜査段階では匿名報道とし、対応が分かれました。

【編注】
▽5月17日午後6時30分、NHK、毎日放送、読売テレビの報道内容を追加。
▽5月18日午前1時30分、朝日放送、関西テレビの逮捕前時点での報道内容が判明したため追加。その後、市議は大阪府警に逮捕されました。

朝日・ABCは匿名、他は実名

 毎日新聞のウェブ記事(リンク)によると、この議員は大阪維新の会所属、中央区選出の不破忠幸氏(53)ということです。

 この市議が任意聴取を受け、立件される見通しだと伝えた各社の記事で、実名報道をしたかどうかをまとめたのが下表です。

朝日新聞匿名(「当選した現職市議」)
毎日新聞実名
読売新聞実名
産経新聞実名
日本経済新聞実名
共同通信実名
時事通信記事なし
NHK記事なし 実名
MBS毎日放送記事なし 実名
ABC朝日放送匿名(「大阪維新の会・男性市議(53)」)
KTV関西テレビ実名
ytv読売テレビ記事なし 実名

(注)逮捕前時点の各社ウェブ記事からまとめた。ただし読売新聞は17日付夕刊紙面、朝日放送は17日「キャスト」、読売テレビは17日「かんさい情報ネットten.」の放送から。

 共同通信記者ハンドブック(第13版)では、参考人、任意調べ段階では匿名にするとしつつ、「内容の重大性または有名人などニュース価値によっては実名敬称・肩書もあり得る」(539ページ)と定めています。

 朝日新聞も「事件の取材と報道2012」で同様に規定しており、その上で以下のように記しています。

政治家や裁量権の大きい公務員など、公人・公的立場の場合は、任意段階であっても実名・肩書呼称で報じてもよい。嫌疑をかけられたこと自体で、政治家などとしての資質に疑念が生じるためだ。容疑内容がその立場や権限と密接に関わっているとみられる場合は、任意の取り調べ段階であってもより積極的に実名・肩書呼称を選択する。一方で、地方議員や自治体職員などの場合は、任意段階では匿名としてもよい。

56ページ

「うぐいす嬢」の言い換え

 ところで、今回の事件では、車上運動員が関係していますが、この表記についても各社で分かれています。

朝日新聞「車上運動員(通称・ウグイス嬢)」
毎日新聞「車上運動員(女性アナウンス係)」
読売新聞「ウグイス嬢」
産経新聞「選挙カー運動員」
日本経済新聞「車上運動員(うぐいす嬢)」
共同通信「運動員」「うぐいす嬢」
NHK「運動員」
MBS毎日放送「いわゆるうぐいす嬢」
ABC朝日放送「いわゆるウグイス嬢」
KTV関西テレビ「アナウンス係の運動員」
ytv読売テレビ「アナウンス係の女性」

(注)前掲表の注を参照。

 選挙カーからアナウンスをする人を俗に、女性ならうぐいす嬢、男性ならカラスと呼びますが、報道では職業を俗称で呼ぶことはポリティカル・コレクトネスの観点から避けられる傾向があります。毎日新聞の「女性アナウンス係」が一番分かりやすい表現だなと思いました。