今週のフロント
佐藤信『日本婚活思想史序説─戦後日本の「幸せになりたい」』東洋経済新報社(2019)

主に女性が主体的に、恋愛感情や、属性や年収など相手に求める条件のすり合わせ、そして共働きといった結婚(独身脱出)後の生活像などを重視した結婚相手探しを行う現在の「婚活」は、21世紀になって突如現れたものではなく、それまでに準備されてきたものであることを主に雑誌などのメディアを追うことで論じた書です。
1980年代半ばに平均24歳という若い編集部の手によって作られた雑誌『結婚潮流』は、現在の婚活と通じる価値観を提示していました。当時は、全盛は過ぎたとはいえ見合い婚が依然残っており、一方ウーマン・リブ運動の盛り上がりによる非婚・キャリア志向の女性への憧れも生じていた時代です。
こうした中で、林真理子のように、結婚はネガティブな要素も含みつつ、しかしそれでも結婚を夢見るモデルがあり、このうち『結婚潮流』はそこからネガティブな要素を捨象して当時としては珍しかった、結婚相手を探す段階の女性が読む雑誌として人気を博しました。
結婚に対する意識が当時から現代に至るまでどのように変遷していくのか、さまざまな大衆メディアを参照しながら軽やかに論じており、とても楽しく読めます。また本文の下には「副音声」と称して著者と編集者の対談文字起こしが載っており、一粒で二度美味しい本になっています。
政治学者の手によって書かれた書だということもあるのか、フェミニズムや女性の権利に対して無理解な面があるのではと思う筆致もあります。ただ、多様性の担保としてさまざまな家族の在り方を法律婚制度の中に落とし込んでいく現在の流れは、一方で私的領域への国家の介入を促すものであり、国家は本来そういう意欲を持ったものであるはずだという痛烈な指摘にははっとさせられました。
聴いた
ラジオ番組など
- TBSラジオ『荻上チキ Session-22』荻上チキ、南部広美
- 特集「劇作家・俳優の岩井秀人さんが語る。 なぜ、引きこもり状態になり、どう脱したのか?」岩井秀人、池上正樹(2019.10.23)
- 特集「警察当局は抗争激化に警戒。山口組のナンバー2の出所が与える影響とは?」鈴木智彦(2019.10.30)
読んだ
書籍
- 後藤謙次『10代に語る平成史』岩波ジュニア新書(2018)
- 武田徹『日本語とジャーナリズム』晶文社「犀の教室」(2016)
- 橘木俊詔『日本の経済学史』法律文化社(2019)
ウェブサイト、新聞・雑誌記事
- 井上マサキ『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか』デイリーポータルZ(2019.10.29)
- 江川紹子『「美の体験」とは~「表現の不自由展」を報告する』〈上、下〉Yahoo!ニュース個人(2019.10.30)
- 木村元彦『なぜ箱根駅伝中継は面白いのか「テレビが箱根を変えてはいけない」』Yahoo!ニュース個人(2018.1.10)
- 駒野剛『権力監視 幕末…記者を志した若者、その後』朝日新聞「多事奏論」(2019.10.30)
- 斎藤幸平、聞き手=高久潤『(インタビュー)再びマルクスに学ぶ』朝日新聞(2019.10.30)
- 逆井聡人『抵抗のヒロイズムとリベラルの空回り』現代思想2019年10月号(2019.9.27)
- そらマメさん『産経新聞(西部本部)では、未だにラグビー日本代表が南アと戦っているぞ()』(2019.10.21)
- 武田康宏『教科書などの“決まり” どう考えるか』毎日ことば(2019.11.2)
- 津田大介『未来世代との連帯 「凡庸な抵抗」が解決策生む』朝日新聞「論壇時評」(2019.10.31)
- 轟孝夫『ハイデガーの「黒いノート」に記されていた、驚きの内容とは』現代ビジネス(2019.11.2)
- 刀祢館正明『「身の丈」発言は英語入試を「正しく」表した』論座(2019.10.30)
- にし『2019年9月11日の中日新聞と東京新聞を比較する』多西送信所(2019.9.30)
- 西森路代『「おげんさん」の願い』朝日新聞「テレビのおとも」(2019.11.2)
- 堀田隆一『第10回 なぜ you は「あなた」でもあり「あなたがた」でもあるのか?』研究社「現代英語を英語史の視点から考える」(2017.10.20)
- 山脇岳志『塩田千春展に66万人 「不確かな旅」死の匂いと癒やし』朝日新聞「多事奏論」(2019.11.2)
- 湯浅誠『守りと攻め、問われるのは軸』朝日新聞「パブリックエディターから 新聞と読者のあいだで」(2019.10.22)
- 横大道聡『改憲論議の視点(上)「解釈」が憲法観ゆがめる』日本経済新聞「経済教室」(2019.10.30)
- 横浜新聞研究所『10月22日「即位の礼」休日の夕刊休刊』横浜新聞研究所のブログ(2019.10.25)
- 横浜新聞研究所『「ジャニー喜多川さん死去」報道と富山県内の新聞』〈①、②、③〉横浜新聞研究所のブログ(2019.10.30〜11.1)