保釈金は「没取」か「没収」か

2020年1月11日

 前日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告が保釈中にレバノンへ逃亡したことを受けて、ゴーン被告が納めていた保釈保証金15億円が没取されることになりました。法令上では「没取」と「没収」は区別されて使われる言葉のようですが、報道ではどうしているのでしょうか。

 各社のニュースサイトで使用されている表現は次のとおりです。

 刑事訴訟法第96条第3項では「保釈された者が、刑の言渡を受けその判決が確定した後、執行のため呼出を受け正当な理由がなく出頭しないとき、又は逃亡したときは、検察官の請求により、決定で保証金の全部又は一部を没取しなければならない」と定められています。

 法令上は刑事罰の「没収」と、行政処分の「没取」を区別しており、保釈金は刑罰として納めるものではなく逃亡しなければ返ってくるものですから刑訴法では「没取」が使われます。

精選版 日本国語大辞典 - 没取の用語解説 - 〘名〙① 財産などを取り上げること。もっしゅ。※西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉七「その船及貨物を没取…
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 ただ報道では法律用語をそのまま使わずに一般用語に言い換えて使うことはしばしばあります。「被疑者」を「容疑者」に、「被告人」を「被告」に、「競売」の読みを「けいばい」ではなく「きょうばい」に、などなど。「没取」の言い換えも同じ例と言えるでしょう。

 そもそも保釈金も法令上は「保釈保証金」と呼ばれているものです。これも見てみますと次のとおりでした。

  • 初出は「保釈保証金」…… 朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞、東京新聞、共同通信、時事通信、TBS、フジテレビ、テレビ朝日
  • 初出から「保釈金」…… NHK、産経新聞、日本テレビ