今週のフロント
安田純平、危険地報道を考えるジャーナリストの会『自己検証・危険地報道』集英社新書(2019)

フリージャーナリストの安田純平さんが、2015年6月から3年4か月にわたりシリアで武装勢力に拘束された事件を受けて、安田さん本人と、安田さん救出のために独自に情報収集や政府への働き掛けなどをしたジャーナリスト集団が、事件時に家族や政府、ジャーナリストは何をすべきで、何をせざるべきだったのか、ジャーナリストの仕事の意義を社会にどう伝えればよいのかを検証した本です。会が主催した危険地報道報告会での安田さんの講演録に加え、座談会などが収録されています。
危険地報道の意義などについては私なりに理解し、尊重しているつもりなのでそうした部分に関しては基本的にうなずきながら読んだのですが、ジャーナリストや日本人が拘束されたときに周りがどうすべきかという議論については、事は単純ではないという感想を持ちました。
安田さん本人としては、不確実な情報を報道されることはそれに付け込んだ正体不明の自称仲介者が家族や政府を混乱させ、またそうした人間を事件に介在させることでかえって拘束を長引かせるとして、国内での誘拐や立てこもり事件同様、何らかの枠組みで報道を自粛する取り組みが必要だという論でした。
国内の事件では情報を提供する側が基本的に警察に絞られており、抜け駆けするメディアも考えにくい一方、紛争地帯での人質事件となると海外メディアや武装勢力によるSNS広報などもあり、自粛が効果的にならないのではないかと思いましたし、座談会でも実際同様の指摘がありました。
しかし事が人命に関わることなのに、不確実な情報を報じることがどのような影響を及ぼすかが危険地取材を経験するジャーナリストと、それ以外の人らの間で認識に差があるかもしれないとは感じました。その意味で当事者である安田さんが何を望むのかを記録として残した本書の意義は大きいと思います。
聴いた
ラジオ番組
- TBSラジオ『アフター6ジャンクション』カルチャートーク「アトロク秋の推薦読書月間 玉袋筋太郎さん」宇多丸、熊崎風斗、玉袋筋太郎(2019.11.4)
読んだ
書籍
- 小田勇樹『国家公務員の中途採用─日英韓の人的資源管理システム』慶應義塾大学出版会(2019)
- 沢木耕太郎『新装版 テロルの決算』文春文庫(2008)
- 高橋ユキ『つけびの村─噂が5人を殺したのか?』晶文社(2019)
- 村井俊哉『統合失調症』岩波新書(2019)
ウェブサイト、新聞・雑誌記事
- aruen『町かどタンジェントと渋谷系の脈絡』baby portable blog(2019.10.25)
- 加藤修滋『シャンソン無断訳詞 「ノン」 原作者の許諾得た曲をライブで披露、草の根から意識変える』日本経済新聞(2019.11.8)
- 北原帽子『こうして誤記はひとつだけ残る』〈①、②〉北原帽子の似たものどうし(2019.9.30、10.14)
- 柴那典『花澤香菜『claire』と「“渋谷系”を終わらせたのは誰か?」という話』日々の音色とことば(2013.2.25)
- 津田大介、(聞き手)辻田真佐憲『津田大介インタビュー』文春オンライン(2019.11.7)
- 中村万里子『首里城再建を主導するのは国?県? 議論の前に押さえておきたい首里城の所有を巡る歴史』琉球新報ウェブニュース(2019.11.7)
- 福留庸友『なぜ日本の新聞写真は心に響かないのか』note(2019.11.6)
- 三宅直人『阪神優勝、大阪が熱狂した夜』毎日新聞(電子版)「新編集講座ウェブ版」(2019.11.1)
- 若田部昌澄、(聞き手)山本菜々子『進歩しない人間だからこそ、歴史に意味がある ―― 「経済学史」とはなにか』シノドス(2013.9.2)