2021 読書この一年

2021年12月31日

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経済=経済史の可能性と、歴史の教訓の手強さと

 小島庸平『サラ金の歴史 消費者金融と日本社会』(中公新書、2月発売)は今年の新書の中でも最もエキサイティングな一冊と言っていいと思います。

 まず問いが面白い。通常は返済能力が劣るとみられがちな人になぜお金を貸すことが事業として成立するのか、という「言われてみれば…」な問いから出発することで引き込まれます。

 しかしそういった言わば、金融上の技術の変遷をたどることによってジェンダーロールや、サラリーマン社会の通俗道徳が見えてくるという新鮮さが素晴らしかったです。経済史ってこんなこともできるんだ、と感動しました。

小島庸平著『サラ金の歴史』

 サラ金を扱った本と言うと、苛烈な取り立ての末の惨劇を告発するルポか、あるいはカ…
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サラ金の歴史 小島 庸平(著/文) - 中央公論新社 | 版元ドットコム

利用したことはなくても、誰もが見聞きはしたサラ金や消費者金融。しかし、私たちが知…
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 横山和輝『日本金融百年史』(ちくま新書、8月発売)は、1920年、当時は「瓦落」と呼ばれた戦後恐慌を始期とする100年間の日本金融史を、「ナラティブ」の影響という切り口でたどっています。ここでいうナラティブは「ナラティブは、人々の間でシェアされる何らかのビジョン、噂、あるいはスローガンのこと」です。

 私にとっての収穫はまず、コーポレート・ガバナンスの変遷がまとめられている点でした。

 しかし本書の面白さはやはり「ナラティブ」が「歴史の教訓」として用いられたことの評価の部分でしょう。

 バブル崩壊後の金融当局者が公的資金注入をためらったことは、後に「後手後手」として厳しく批判されます。このとき当局者は、関東大震災後の金融恐慌時に、銀行の同時多発的な取り付け騒ぎに起こる前には公的資金注入への世論の理解が得られなかったものの、パニック後に世論は注入支持へ転換したことを「歴史の教訓」と理解していました。

 しかし金融恐慌自体が政府の金融不安への対応先送りが原因であり、注入に際して高橋是清蔵相や井上準之助日銀総裁が積極的に世論の説得に動いていました。このことが知られるようになったのは1990年代以降のことだったといいます。バブル崩壊当時の「歴史の教訓」の認識がもし更新されていたらどうなっていただろう、と考えさせられます。

 「歴史の教訓」を現在に生かすことの難しさと、それでいて「歴史の教訓」として語られるナラティブは実際の社会を動かしてしまう力を持つことを強調した本書の内容は、アベノミクスの起こりから挫折までを経験した現在、とてもリアリティーを持って迫ってくると思います。

日本金融百年史 横山 和輝(著/文) - 筑摩書房 | 版元ドットコム

関東大震災、金融恐慌、戦時下経済から戦後復興、高度成長、バブル、失われた30年へ…
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