今週のフロント
村上陽一郎著『ペスト大流行─ヨーロッパ中世の崩壊』

ヨーロッパ中世封建社会で3千万人もの死者を出した黒死病ことペスト。その流行の実態と、ペストの原因をめぐる神学、医学上の論争、そしてペストが人々にどのような動揺をもたらしたのかをまとめた書です。
ペストがヨーロッパ社会をどう変えたのかについて触れた第7、8章を特に面白く読みました。感染症の隔離政策が歴史上公式に初めて行われたのが、レッジオ(現在のイタリアの都市)のベルナーボ公が1374年に発布した条例だったそうです。患者は人間の看護から離れ、原野に置き去りにして神の手に委ねる、というものでした。患者に付き添っていたものも10日間は町に立ち入ることが許されません。
違反すれば重罪に処されるこの隔離政策は、実のところ、ペストの流行が一段落して終息した段階で導入されたというのです。当初から「『隔離』が病気の蔓延を防止するという名目における患者の遺棄に近い内容を持っていた」(138ページ)のが驚きでした。ユダヤ人が井戸に毒をまぜたのが原因だとして、ユダヤ人狩りが横行することもあったようで、感染症の歴史が差別や迫害と切り離せないことを改めて突き付けられた思いです。
(岩波新書、1983年)
新型コロナウイルスを巡ってはこの週、他にも心に残る作品に接しました。
美術史上、人が疫病をどう描いてきたかを扱ったNHK『日曜美術館』「疫病をこえて 人は何を描いてきたか」も勉強になりました。ペストの大流行で神や信仰への懐疑が生まれる中、それまで神から罰を下された者として描かれることの多かった死者が、15世紀半ばのバーント・ノトケ『死の舞踏』では生者が生きていく上で傾聴すべき存在として描かれます。ペストが促したルネサンスの前後で聖母マリアの描かれ方も、荘厳な表情から、より人間らしい描写に変化する過程も見られます。ペストと向き合った人々が達した境地に感激を覚えました。(2020.4.19放送。出演=小野正嗣、柴田祐規子、小池寿子、山本聡美、長野栄俊)

大塚製薬のCM『ポカリスエットweb movie|「ポカリNEO合唱 ドキュメンタリー完全版」篇』は、新型コロナウイルスの影響で合唱の収録ができなくなった事態を受けて、出演生徒がそれぞれの自宅などで歌う様子を撮影したものをつなげました。休校、卒業式の縮小や中止を乗り越えて「今しかない」時代を生きていく尊さを高らかに歌っています。一緒に集まることは出来ないけれど、クライマックスでそれぞれのスマートフォンが写し出す青空は、距離を隔てながらもつながる連帯の象徴。CMにはこういうことができるのかと、勇気づけられました。(2020.4.9公開、出演=汐谷友希ほか)
見た
テレビ番組
- MBSテレビ『映像研には手を出すな!』第1回 齋藤飛鳥、山下美月、梅澤美波ほか(2020.4.6)
- NHK『100分de名著』コッローディ「ピノッキオの冒険」第2回「嘘からの成長」安部みちこ、伊集院光、和田忠彦 朗読=伊藤沙莉(2020.4.13)
- NHK BS1スペシャル『シリーズコロナ危機 グローバル経済 複雑性への挑戦』ジョセフ・スティグリッツ、マルクス・ガブリエル、トーマス・セドラチェク、ニーアル・ファーガソン、ルチル・シャルマ、ペリー・メーリング、小幡績、飯田泰之、早川英男
- NHKスペシャル『ヒグマと老漁師〜世界遺産・知床を生きる〜』語り=草刈正雄(2020.4.19)
- NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』中村勘九郎、阿部サダヲ、森山未來、神木隆之介、ビートたけしほか
- 第4回「小便小僧」(2019.1.27)
- 第5回「雨ニモマケズ」(2019.2.3)
- 第6回「お江戸日本橋」(2019.2.10)
ウェブ動画
- 関西電気保安協会チャンネル『全編:ある日突然関西人になってしまった男の物語|関西電気保安協会【公式】』(2020.4.16)
- 神田伯山ティービィー『【講談】「グレーゾーン」in 新宿末廣亭(2020年2月17日口演)【真打披露目ver.】』YouTube(2020.4.11)
- 笹公人『うちで六輔』Twitter(2020.4.17)
聴いた
ラジオ番組
- TBSラジオ『アフター6ジャンクション』「『海辺の映画館 キネマの玉手箱』を予備知識なく見て卒倒しないための大林宣彦講座!」宇多丸、熊崎風斗、柳下毅一郎(2020.4.6)
- TBSラジオ『荻上チキ Session-22』「総理会見の報道、有識者の“戦時下”発言、星野源さんの楽曲使用動画、省庁の番組名指しツイートなど、緊急事態宣言下のメディアと政権の関係を考える」荻上チキ、南部広美、辻田真佐憲(2020.4.13)
読んだ
書籍
- 諸富徹『私たちはなぜ税金を納めるのか─租税の経済思想史』新潮選書(2013)
ウェブで読めるもの
- hiro『読売新聞の県版見直し(※コロナウイルス騒動が落ち着くまでの暫定措置) ●』そらマメさん(2020.4.15)
- 赤江珠緒『【追記あり】「たまむすび」リスナーの皆様へ ~赤江珠緒さんからのお手紙(全文)』TBSラジオ(2020.4.16)
- 安住紳一郎『アナウンサー安住紳一郎がラジオで手にした“武器” 局アナ貫き「司会者」目指す』ORICON NEWS(2020.4.19)
- 石川健治 聞き手=豊秀一、石田祐樹『(インタビュー)「緊急」の魔力に抗する 新型コロナ』朝日新聞デジタル(2020.4.17)
- 多和田葉子『(多和田葉子のベルリン通信)理性へ、彼女は静かに訴える』朝日新聞デジタル(2020.4.14)
- 梶谷懐『(経済教室)コロナショック後の世界(下)中国、社会的分断 深刻化も』日本経済新聞電子版(2020.4.17)
- 小林慶一郎『(経済教室)コロナショック後の世界(上)産業構造変化や格差是正も』日本経済新聞電子版(2020.4.15)
- 鈴木謙介『「コロナ後の世界」は来るか?』SOUL for SALE(2020.3.31)
- 竹内幹『(経済季評)株価の裏にあるもの 市場は「大惨事」忘れない』朝日新聞デジタル(2020.4.14)
- 二宮寿朗『志村けんさんとFC東京の一期一会。「変なおじさん」味スタ降臨秘話。』Number Web(2020.4.19)
- ゆげひろのぶ、加藤勇介『(明日へのLesson)第3週:クエスチョン 感染症による社会の変質を考える 東京大学入試問題から』朝日新聞デジタル(2020.4.15)
- 輪島裕介『ソウルマンの死~追悼・志村けん』本がひらく(2020.4.15)