今週のフロント
田辺俊介(編著)『日本人は右傾化したのか─データ分析で実像を読み解く』勁草書房(2019)

「ナショナリズムの台頭」「若者の保守化」など、日本が「右傾化」しているという言説が多く出ている現在、その実態を2009年から4年おきに3回実施された大規模全国調査のデータに基づいて解き明かした書です。
同書はいわゆるナショナリズムを、ネイションの境界を設定してその内部を純化し、外部との差異化を強調する「純化主義」、境界内部である国を愛することが必要だとする「愛国主義」、境界外部へのネガティブな主義主張を指す「排外主義」に分類し、さらにそれぞれを細分した概念に対応する形で、調査の質問を設定しています。
興味深いデータはいくつもあるのですが、第一章の分析から紹介すると、全体的な変化は民主党政権誕生の2009年から、自民党政権復帰後の2013年への変化が大きく、そこから2017年までの変化はあまりなかったということです。では前者の変化の具体を見ると、排外主義は対中韓で強まり、アメリカを含む外国一般に対しては弱まっています。また純化主義においては、自己規定や法規範の順守など後天的にネイション内部に加入可能な要素によって規定する「市民(・政治)的純化主義」よりも、出生や血統といった変更可能な属性によって規定する「民族(・文化)的純化主義」の強まりが顕著であることが示されています。
こうした変化がどういう背景を持ったものなのかといった詳細な分析は同書をお読みいただくとして、同書でも特に興味深くかつ今後の研究での解明が必要とされる点が若者の意識についてだと言えます。若者は右傾化しているというよりは、権威主義的な価値観が強まっています。安倍晋三政権支持の内容も、高齢層は自民党支持が実相であるのに対し、若者層は安倍首相個人の支持が強いようです。
そして脱原発に対しても、国民全体の趨勢としては脱原発賛成のほうが多いのに、若者層に限ると反対のほうが多くなるということ。安倍首相に対する評価の規定要因も、権威主義も有意な水準で影響しているとはいえ、それよりも反平等主義や「原発利用賛成」の影響度のほうが大きいという結果に。「原発利用賛成」については原発政策による首相評価というよりは、原発が物質主義や経済成長の象徴として位置付けられており、こうした背景の考え方が安倍支持につながっているのではないかとしています。逆に嫌中嫌韓意識が安倍支持にはさほど影響していないという結果も出ている中で、安倍支持の背景が若者層で特徴的なのは、今後の社会の対応を考える上でとても重要なポイントではないかと思いました。
見た
テレビ番組
- NHKスペシャル『日本人と天皇』(2019.4.30)
- テレビ朝日『くりぃむナンチャラ』「サイコロ選手権!前半戦」くりぃむしちゅー、浜口京子、板倉俊之、斉藤慎二(2019.10.25)
ウェブ動画
- ア=ジ『楽しい無限』(全5回)ニコニコ動画(2019.10.6)
- 林雄司『林編集長による地味ハロウィンの分析』プープーテレビ(2019.10.23)

イベント
- 『生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2019』(2019.10.28)→レビュー記事
- モリサワ本社5階展示場「モリサワスクエア」
- 大阪取引所
- 東畑建築事務所
- 日本基督教団浪花教会
- 三井住友銀行大阪営業部
- 大同生命本社
聴いた
ラジオ番組
- TBSラジオ『荻上チキ Session-22』特集「『即位礼正殿の儀』で新天皇が即位を宣言。 改めて考える象徴天皇制」荻上チキ、南部広美、原武史、辻田真佐憲(2019.10.22)
- TBSラジオ『安住紳一郎の日曜天国』「ゲスト パンダジャーナリスト・中川美帆さん」安住紳一郎、中澤有美子、中川美帆(2019.10.27)
読んだ
書籍
- 尾崎孝史『未和─NHK記者はなぜ過労死したのか』岩波書店(2019)
- 梶谷懐、高口康太『幸福な監視国家・中国』NHK出版新書(2018)
- 鈴木勇一郎『電鉄は聖地をめざす─都市と鉄道の日本近代史』講談社選書メチエ(2019)
- 砂原庸介、稗田健志、多湖淳『政治学の第一歩』有斐閣ストゥディア(2015)
ウェブサイト、新聞・雑誌記事
- 朝日新聞デジタル『台風の死者、自治体なぜ匿名? 公表は法的に問題ないが』(2019.10.25)
- 伊藤亜紗『渡部隆夫さん』Asa Ito(2019.10.23)
- 小沢慧一『南海トラフ80%の内幕(1)研究者の告発』中日新聞「ニュースを問う」(2019.10.20)
- 横大道聡、(聞き手)Kawasaki Saori『「自由に表現したいなら自分のお金で」。その声を憲法学者はどう見るか【あいちトリエンナーレ】』ハフポスト日本版(2019.10.23)
- 黒崎卓『ノーベル経済学賞に米大3教授 貧困削減へ効果的介入 解明』日本経済新聞「経済教室」(2019.10.21)
- 講談社現代新書編集部『メガヒットしそうな「新書のタイトル」を、本気で考えてみた』現代ビジネス(2019.10.22)
- 神津里季生『新聞で得られるものは何なんだろう?』神津里季生の「おやっ?」と思うこと~労働組合とメディア論(2019.10.23)
- 小谷野敦、綿野恵太『連続トークイベント「今なぜ批評なのか」第3回 昭和・平成・令和――改元直後に、天皇・天皇制・皇室について考える』週刊読書人(2019.7.5)
- 生田綾『芸能活動を休止中の坂口憲二さん、コーヒー焙煎士になっていた。新たなチャレンジにかけた思いを聞いた』ハフポスト日本版(2019.10.23)
- 佐々木亮『「まるで加害者の弁解カタログ」パワハラ防止法の指針案のとんでもない内容』Yahoo!ニュース個人(2019.10.22)
- サッポロビール『菊地成孔が体験する「食べるシャンパン。」─マリアージュのアプローチは「選曲」とも通じ合う。』meets TAITTINGER(公開日不明)
- 週刊文春編集部『「法的措置も検討」と週刊文春に抗議文が届いたので……「日経記者、トヨタ派遣」の問題点をさらに取材した』文春オンライン(2019.10.23)
- 全宅ツイ『マンション管理組合の『1円も払いたくない病』』BEST! TIMES(2019.10.22)
- 竹田昌弘『「無期懲役でも十数年で仮釈放」はうそ 17年は平均33年2カ月、元名古屋大女子学生が服役へ』47NEWS〈共同通信〉(2019.10.24)
- 時田昌、軽部能彦、岩佐義樹、(まとめ)宮城理志『新聞の“表記ハンドブック”をつくる現場とは』毎日ことば(2019.10.26)
- 福山絵理子『西成変えた「闘う経済学者」 ホームレスの研究が結実 学習院大教授・鈴木亘さん(1)』日本経済新聞電子版(2019.10.21)
- 福山絵理子『「社会変えるには経済学」 闘う学者、原点は高校時代 学習院大教授・鈴木亘さん(2)』日本経済新聞電子版(2019.10.22)
- 福山絵理子『景気予測なのに忖度? 日銀に辞表、大学院で学び直し 学習院大教授・鈴木亘さん(3)』日本経済新聞電子版(2019.10.23)
- BRANDON KEIM(著)TOMOKO TAKAHASHI(訳)『世界の地下鉄網は「同じ形」─ネットワーク分析で判明』WIRED.jp
- マネーライト『温冷交代浴の儀』マネーライトのオールナイトニッポン(2019.10.22)
- 山鹿武廣『産経新聞社がフジHD傘下入り秒読み 背景に首相の「一声」』AERA dot.(2019.10.21)
- 吉田徹、西山隆行、石神圭子、河村真実『「みんながマイノリティ」の時代に民主主義は可能か』シノドス(2019.10.23)