TOKIO山口さん書類送検、各紙報道を検証

2018年4月27日
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山口達也さん書類送検を報じる26日付各紙。左上からサンスポ、ニッカン、中スポ、左下から京都、読売、朝日。

 アイドルグループTOKIOの山口達也さんが書類送検された事件を、スポーツ紙各紙は1面で報じ、一般紙も比較的大きな扱いをしています。今回は、各社の報じ方の違いなどを記録します。

 なお「山口メンバー」という呼称の理由に関する考察は、当ブログですでに公開している記事をご覧ください。

 アイドルグループTOKIOの山口達也さんが、女子高校生への強制わいせつの疑いで警視庁の調べを受け、東京地検に書類送検されていたことが25日午後、NHKの報道を…
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 また事件の詳細に関しては、性被害という慎重な扱いが求められる事例のため、各社の報道姿勢を検証するために必要なものに限定して記述します。ご了承ください。

朝刊17紙を収集

 今回は26日付朝刊17紙を集めました。

一般紙

  • 朝日新聞(大阪発行14版)
  • 毎日新聞(同14版)
  • 読売新聞(同14版)
  • 産経新聞(同15版)
  • 日経新聞(同14版)
  • 京都新聞(17版)
  • 神戸新聞(14版)
  • 中日新聞(12版)
  • 東京新聞(12版都心)
  • 大阪日日新聞

スポーツ紙

  • 日刊スポーツ(大阪発行7版)
  • スポーツニッポン(同12版▲)
  • スポーツ報知(同11版)
  • サンケイスポーツ(同12版)
  • デイリースポーツ(神戸発行12版)
  • 中日スポーツ(名古屋発行5版)
  • 東京中日スポーツ(東京発行5版)

一般紙の扱い

 各社の扱いを表にまとめます。

新聞掲載位置(括弧内数字は段組)見出し(括弧内数字は段数、「▼」は枝記事)
朝日1社面カタ(12)山口達也メンバー書類送検/高校生にわいせつ容疑 TOKIO(3)
▼人気番組・朝の顔 見合わせ次々(3)
毎日1社面4番手(15)山口達也メンバー書類送検/TOKIO 強制わいせつ容疑(3)
▼各テレビ局番組変更も(1)
読売2社面トップ(12)山口容疑者 強制わいせつ/TOKIO 女子高生にキス/書類送検(3)
▼出演番組 放送取りやめ(2)
産経1社面カタ(12)山口達也メンバー書類送検/TOKIO 強制わいせつ容疑(3)
日経1社面4番手(15)山口メンバー書類送検/TOKIO 強制わいせつ容疑(3)
神戸※2社面3番手(12)TOKIO 山口メンバー書類送検/女子高生にわいせつ容疑/TOKIO(2)
▼番組やCM中止(1)
京都※1社面トップ(12)TOKIO 山口メンバー書類送検/強制わいせつ容疑/女子高生に酒勧めキス(4)
▼出演番組やCM放送中止相次ぐ(1)
中日1社面4番手(12)山口達也メンバー 女子高生にわいせつ/TOKIO、容疑で書類送検(2)
▼放送中止など相次ぐ(1)
東京1社面カタ(12)TOKIO 山口達也メンバー書類送検/女子高生被害 強制わいせつ容疑(3)
▼出演番組の放送中止相次ぐ(2)
▼本当に申し訳ない/ジャニーズ事務所(1)
大日※1社面3番手(15)TOKIO 山口メンバー書類送検/女子高生にわいせつ容疑(4)
▼番組、CM中止相次ぐ(1)

※神戸、京都、大阪日日は共同電を使用。

 以前は、見出しで罪名に「容疑」を付ける方が少数派でしたが、最近は推定無罪原則の徹底の一環として見出しにもきちんと「容疑」を入れることが増えてきました。今回は10紙全てが見出しに「容疑」を含めています。

 なお以下、記事本文に関する記述では中日と東京が共通原稿のため、中日のみ紹介し、京都、神戸、大阪日日はいずれも共同電のため「共同」として紹介します。

被害女性と知り合った経緯

 被害女性と知り合った経緯についての報道は、その踏み込み方に差が出ました。踏み込まなかった社は、単純に取材が詰められなかっただけかもしれませんし、被害者特定につながる情報を控えたためという可能性もあります。以下、その状況をまとめます。

朝日容疑の説明の中で「知り合いの女子高校生」。知り合った経緯については記述なし。
毎日山口メンバー司会の番組を「通じて」知り合ったと説明。番組名を明記。
読売容疑の説明の中で「知人の女子高生」。知り合った経緯については記述なし。
産経「関係者によると、女子高校生とはテレビ番組で知り合っていた」と記述。
日経送検容疑の説明として、「知人の女子高校生」。知り合った経緯については記述なし。
中日「女子高校生とは仕事を通じて知り合い」と記述。
共同「女子高校生とは仕事を通じて知り合った」と記述。

 番組名を出すことの是非について少し私見を述べます。

 被害女性の特定につながらないようにすることはとても大事です。一方で、刑事手続きを受ける被疑者の人権を守るために被疑者がどのような容疑をかけられているのかを明らかにし、捜査機関や司法が適切な仕事をしているのかを、報道によって監視することも大切です。また事件を契機に、社会全体で何らかの対応を取るべきことがある場合、その参考になる情報も報じられるべきです。

 今回の場合、最も踏み込んだ内容を書いた毎日新聞でも被害女性が「出演者」だとは言っていません。単にそこまで裏が取れなかったのかもしれないし、特定を防ぐための配慮表現なのかもしれません。

 むしろ山口メンバーが司会を務める番組であることが大事でしょう。番組のメインキャストと、番組関係者との力関係は、事件の一側面として取り上げられる必要があると思います。もしかすると放送局にも何らかの対応が求められるかもしれません。その意味でも番組名を出すこと自体には、一定の意義があると思います。

 25日の報道ではフジテレビがいち早く番組名を報じました。このときは私も、番組名まで出すことはないだろう、被害者特定につながるだろうに、と思いツイートでも批判したのですが、考え直しまして一定の意義があると思い直しました。ただこのブログではその目的上、番組名は伏せています。

スポーツ紙は大半が呼び捨て

 1面で扱ったのがニッカン、サンスポ、中スポ・東中。終面で扱ったのがスポニチ、報知、デイリーでした。以下中スポと東中は、この報道に関しては共通紙面のため「中スポ」として紹介します。

 まず呼称についてです。スポーツ紙は訃報を除けば内容に関わらず芸能人の敬称を省くのが一般的ですが、事件報道となると「容疑者」を付けるかどうかが各社によって分かれることがあります。今回は在宅捜査ですから「容疑者」は付けないのが普通ですが、さてどうしたのでしょうか。

新聞見出し本文初出
ニッカン山口達也山口達也
スポニチ山口山口達也
報知山口達也山口達也
サンスポ山口メンバー山口達也メンバー
デイリー山口達也山口達也
中スポ山口山口達也

 呼び捨てにした社がほとんどで、サンスポのみ「メンバー」呼称でした。

刑事処分の見通し

 次に山口さんの今後の刑事処分に関する報道です。各社とも、専門家にその見通しを取材しています。

新聞要旨
ニッカン「若狭勝弁護士」の見方として「起訴されることはほぼない」。非親告罪化されたものの適用は悪質な事例で「被害者側が告訴したくてもできない場合」としている。
スポニチ「捜査関係者」の話として書類送検にとどまった理由を「極めて悪質とはいえず、有名人で身柄を確保する必要がないため」。示談成立や被害届取り下げを理由に起訴猶予になる可能性が高いとの見方。一方で飲酒を強要していた場合は未成年者飲酒禁止法違反容疑で別の捜査が続くとも。
報知「刑事事件に詳しい元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏」の話として、被害届取り下げ、示談成立を理由に裁判になることはほぼなく、早くて5月頃にも起訴猶予となる可能性が高いとした。
サンスポ「元東京地検検事の田中喜代重弁護士」の話として、被害届取り下げで「検察が不起訴にすることは明らか」。身柄拘束は「被疑者の人権を侵害することになるので」回避したのだろうと説明。
デイリー記述なし。
中スポ記述なし。

 スポニチが捜査関係者のコメントを取っているのが、異色でした。もちろん取材の筋論から言えば捜査関係者からコメントを取るのが一番ですが。

番組名を明示した社も

 山口さんと女子高校生が知り合った経緯について、一般紙では、番組名まで出したのは毎日新聞に限られましたが、スポーツ各紙は積極的に報じています。

ニッカンリードで「女子高生と知り合ったとみられる」番組は「打ち切りが濃厚」と記述し、番組名を明示。また捜査関係者情報として、事件が同番組の「打ち上げの後だったという情報もある」とした。
スポニチリードで「山口が司会を務める」番組で「共演していた」と記述し、番組名を明示。本文でも「女子高校生とは」同番組を「通じて知り合った」とした。
報知「相手はテレビ番組を通じて知り合った女性」と記述。
サンスポ「被害に遭った女子高生は山口メンバーが司会を務める」番組の「共演者」とした。番組名は明示している。
デイリー「女子高校生とは仕事を通じて知り合った」と記述。関係者情報として被害女性の年齢を明示。「事務所は相手の女性の素性については『申し上げられない』と明かさず」ともしている。
中スポ「自身が司会を務める」番組で「知り合った女子高校生」と記述。番組名は明示。

 報知とサンスポ以外は番組名を明示。またスポニチ、サンスポは「共演」としました。大半は捜査関係者情報として書いているので、一般紙とスポーツ紙とでの取材力の差というよりは、報道で重視することや差ということではないでしょうか。

まとめ

 性加害・被害に関する報道には、それが被害者に対する二次加害とならないような配慮が特に必要です。単なるスキャンダリズムで報じるのは、人権侵害にあたる恐れがあります。各社の報道姿勢を比較してきましたが、皆さんはどうお考えでしょうか。

 付言しておくと、その後の26日午後の山口さん自身による会見では、山口さんがお酒に関する健康上の理由で入院していたことが明かされました。本人はアルコール依存を否定していますが、今後依存と加害との関係についても報道や検証がなされる可能性があります。

 この時に、単なる興味本位で報じるのではなく、では「どうすればいいのか」という視点で、アルコール依存との向き合い方など「出口」の情報を提供することが報道機関には求められます。以前、自殺報道についてこのブログで取り上げた時にもこの点について触れ、一部の社が相談窓口などの情報を提供していたことを評価しました。今後も注意深く報道を見守っていこうと思います。

  以下参考となる情報です。

▽TBSラジオクラウド 荻上チキ・Session-22「【OP】TOKIO山口達也さん書類送検における、ネットの反応の一部に違和感が。荻上チキ」
https://radiocloud.jp/archive/ss954/?content_id=33369

▽朝日新聞デジタル「アルコールに依存する妻 家族にも異変『何かが壊れた』」
https://digital.asahi.com/articles/ASL4J4T4DL4JPTIL00N.html?iref=comtop_favorite_02